"母は死んだと書いた娘" 第15話
でも、美術のはを忘れるほど集して、コンクールで回、賞を取りました」
私の声が、仏に静かに染み渡っていく。
「初めて理が来た、あの子はお腹を押さえて、私のでさくうずくまりました。お赤飯を炊いたら嫌がるだろうとって、あの子の好きなカボチャのポタージュを作って温めました。をしたは、えピタよりも濡らしたタオルを好みます。卵焼きは、甘いものよりだしの汁巻きが好きで、端っこの焦げた部分から先にべるんです」
つ、またつと言葉をねるたびに、文恵さんの表から険しさが抜け落ちていった。 その瞳に、驚愕と、痛ましいほどの揺が広がっていく。
「……そんなことまで」
「母と名乗ったことは度もありません。葵から『お母さん』と呼ばれたこともありません」 私は涙をこらえながら、文恵さんをまっすぐに見つめた。 「それでも、あの子が私に見せてくれた々の欠片を、私は何つ忘れたことはありません。政婦だとわれても構わない。でも、あの子が私のお弁当のメモを隠し持って、毎晩、んだお母さんに『美しいとってごめんなさい』って謝り続けていたのをった……私の胸は、引き裂かれそうでした」
「メモ……?」 文恵さんの声がかすれた。
「ええ。ベッドのの缶のにありました。
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私の名を黒く塗りつぶしながら、あの子は、泣いていたんです」 私は声を震わせた。 「どうしてそこまで、あの子は自分を責めなければならなかったんですか? あの子を縛り付けているものは、体何なんですか……!」
文恵さんは目を見き、やがて両で顔を覆った。 老いた細い肩が、かすかに震え始める。
「……志保の呪いです」 絞りすような呟きが、文恵さんの指の隙から漏れた。
「呪い……?」
文恵さんはちがり、仏壇の脇にあるさな桐の箱を持ってきた。 蓋をけると、から古びたさなノートと、のひらサイズのボイスレコーダーがてきた。 それは、志保さんが闘病に記していた記だった。
「志保はね、最期は胃から全に癌が転移して、モルヒネを使っても激痛に苦しんでいました」 文恵さんは記の頁を、おしむように撫でた。 「識が混濁するで、志保が番恐れていたのは、ぬことそのものじゃなかった。自分がこの世界から、誰の記憶からも消えってしまうことだったの」
文恵さんの瞳から、筋の涙が零れ落ちた。
「康平さんは、志保が入院している最から、すでに『んだの活』の話ばかりしていました。保険の続き、実の理、葵の預け先……理で、向きな男ですからね。志保はそれに絶望していた。『あのは、私がんだらすぐにしい女を連れてくる。
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私のきた跡なんて、あっというにきされてしまう』って」
記の最の数頁を、文恵さんが私のに差しした。 震えるでかれた、掠れた鉛の文字。
『康平さんは、もう私の顔を見てくれない。私のいない未来の話ばかりしている』 『葵まで、私のことを忘れてしまったらどうしよう』 『葵が、いつか別のを「お母さん」って呼んだら……私のきていた所は、どこにもなくなってしまう』 『お願い、葵。お母さんをにしないで。お母さんを、捨てないで』
息が止まりそうだった。 病魔に侵され、の恐怖に狂わされそうになっていた代の母親の、血を吐くような鳴。
「志保が息を引き取るでした」 文恵さんは静かに語り続けた。 「識が朦朧とした志保が、病のベッドでうわ言のようにその言葉を繰り返したの。『葵、忘れないで。別のをお母さんって呼ばないで。お母さんを消さないで』って……。康平さんは席をしていて、病には私と……カーテンの裏に、歳だった葵がっていたのよ」
を鈍器で殴られたような衝撃がった。
「あの子は……聞いていたんですか」
「ええ」 文恵さんは頷き、胸元をく押さえた。 「葵は、真っな顔をして、ベッドの柵を握りしめていました。志保のたくなったを握って、『約束するよ、お母さん。絶対に忘れない。誰も、お母さんの代わりにしない』って、泣きながら何度も何度も頷いていた。
……あの子にとって、それはにゆく母親と交わした、命懸けの契約だったのよ」