"母は死んだと書いた娘" 第13話
「な……何やってんだ、あいつは! 事な模試の朝に、こんなくだらない当てつけをしやがって!」 康平は髪を掻きむしり、唾をばしながら鳴り散らした。 「警察だ! 警察に連絡して、親戚にも話して探させる! あいつ、俺の顔にどれだけを塗れば気が済むんだ! 学にバレたら、推薦枠なんて発で取り消しだぞ!」
「やめて」 私のく乾いた声が、康平の声の隙に滑り込んだ。
「あ? やめてって何だよ! 放っておけって言うのか!?」
「警察汰にして、親戚に言いふらして……そうやってあの子を追いつめて、何になるの?」 私は康平の目をまっすぐに見据えた。 「あの子がこうなったのは、誰のせい? あなたが自分の世体のために、あの子の気持ちを無して養子縁組を押し付けたからじゃないの」
「俺はおたちのために――」
「私の名を使わないで!」 私は初めて、康平の言葉を鳴りつけるように遮った。 康平がビクッと肩をねさせ、気圧されたようにを噤む。
「私のために、あの子の母親を消そうとしないで。……あなたには、あの子のき先の見当すらついていないんでしょう」
「な、何だと……? き先って、友達のかファミレスくらいだろ」
「葵には、庭のことを話せる友達なんてもいないわ」 私は奥歯を噛み締めた。 「学の調査票に『母はんで父と暮らし』ってくような子が、友達のに転がり込めるわけがないでしょう。
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あの子が持っていったのは、志保さんの遺品が入った袋だけよ。携帯も財布も、したおは持っていない」
母親の形見だけを抱えて、すべての常を断ち切って向かう所。 歳の女が、この世界でたったつ、母親のが否定されない所。
「……静岡のお母さんのところね」
私の言葉に、康平は信じられないものを見るような顔をした。 「静岡? 志保の実か? 馬鹿言うな、あそこのババア……義母は、俺が再婚してから連絡つ寄こさないんだぞ! あいつがで幹線に乗ってけるわけがない!」
「けるわよ。あの子を甘く見ないで」 私は着を羽織り、バッグに財布とスマートフォンを放り込んだ。 そして、玄関へ向かうに、デスクの引きしから昨見つけたあの類――『養子縁組届』を掴み、バッグの底へと押し込んだ。
「おい、朋代! どこへくんだ!」 追いかけてくる康平の腕を、私はたく振り払った。
「私が連れ戻してくる。あなたには、絶対に葵を触らせない」
「ふざけるな! 親権者は俺だぞ! 俺もく!」
「来ないで」 私は振り返り、絶対零度の声で言い放った。 「あなたが来たら、葵は今度こそ度と戻らなくなる。……で、自分のしたことの浅ましさを反省していなさい」
玄関のドアを閉め、たいの朝の空気のに踏みした。 背で康平が何かを叫んでいたが、その声は駅へ向かう私の音にかき消されていった。
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京駅から幹線にび乗り、静岡へと向かった。 窓を流れる並みが、のので濁っていく。 座席にくを沈めながら、私はコートのポケットので、葵の保険証の切れ端を握りしめていた。
昨夜、葵のベッドので見つけた、古いクッキー缶。 擦り切れた志保さんの写真。 そして、私の名が狂おしいほどの力で塗りつぶされた、分のさなお弁当のメモ。
『ごめんなさい、おかあさん』 『おいしかったってって、ごめんなさい』
あの子の震える文字が、網膜の裏側に焼き付いてれなかった。 あの子は、自分を罰していたのだ。 継母の料理を美しいとう自分を。 継母の優しさに縋りたくなる自分を。 「お母さん」という唯無のを裏切ってしまうのではないかという恐怖に、たった歳の頃から、で怯え続けていたのだ。
それを救いすどころか、父親は「世体」という名の暴力で、実母の痕跡を戸籍から消しろうとした。 そして私は、その暴力の片棒を担ぐ「しい母親」として、あの子の目に映っていた。
(待っていて、葵)
胸の奥で、祈るように繰り返した。 母親になんてならなくていい。 そんなっぽい名で、あなたを縛りたくなんてない。
幹線をり、ローカル線に乗り継いで揺られること分。 着いたのは、茶畑が広がるあいのさな町だった。