"母は死んだと書いた娘" 第12話
缶を元のベッドのの暗がりへと戻す。
ベッドのでは、葵がゴミ袋を抱きしめたまま、苦しそうに眉を寄せて寝息をてていた。 そのさな体が、背負いきれないほどの荷に耐えかねて、きしんでいるように見えた。
(ごめんね、葵。気づいてあげられなくて、本当にごめんね)
私はので何度も詫びながら、静かに部をてドアを閉めた。
翌朝。 計の針が午を回った頃、私はいを抱えて台所へ向かった。 今こそ、葵と向きわなければならない。 母親になろうとするのではなく、養子縁組なんて切れを押し付けるのではなく、ただのとして、あの子が背負ってきた痛みをろしてあげなければならない。
そう決して、階段をりただった。
玄関のに、葵の通学用のスニーカーがなかった。 傘ても、彼女の傘が本消えている。
胸騒ぎがして、リビングへとった。 テーブルのには、朝用の皿ではなく、枚のいが置かれていた。
そののには―― ハサミで真っつに切り刻まれた、葵の健康保険証。 そして、このの玄関の鍵が、たく転がっていた。
の余には、黒いマジックで、乱暴な文字が言だけ殴りきされていた。
『もう、探さないでください』
臓が、底へ向かって真っ逆さまに落ちていった。
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急いで葵の部へ駆けがると、ドアはけ放たれていた。 昨夜抱きしめていた黒いゴミ袋――志保さんの遺品が入っていた袋だけが、部から消えていた。
計は午を回ろうとしていた。 その、リビングの固定話が、けたたましい音をてて鳴り響いた。
私は転がるように階段を駆けり、受話器を引っこ抜いた。
「はい、浅井です!」
『あ、浅井さんでしょうか!? 担任の浦です!』 話の向こうから、浦先の焦燥しきった声がび込んできた。 『葵さんは、ご緒ですか!? 今朝、県統の模試の会に、葵さんがまだ姿を見せていないんです! 携帯も源が入っておらず、連絡が全く取れなくて……!』
のが、カッとくなった。 今だ。 の推薦基準を決定づける、学活で最もな県統模試。 葵が何ヶもから、夜遅くまで机にかじりついて対策していた、あの事な試験。
それを放りして、葵は消えたのだ。 保険証を切り裂き、鍵を捨て、母親の遺品だけを抱えて。
「先、葵は……」 私の声は、激しく震えていた。 「葵は、にいません」
受話器を握りしめる私の指先から、血の気が引いていく。 窓のでは、ののが空を覆い尽くそうとしていた。
「先、葵は……にいません」
受話器を握る指先が、たく張っていくのが分かった。 話の浦先は息を呑み、揺を隠せない声で「警察に連絡した方がよいでしょうか」
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と繰り返した。
「いえ、し待ってください。当たりを探します。見つかり次第、すぐに連絡しますから」
通話を切ると、リビングには耐えがたい静寂だけが残された。 テーブルのには、真っつに切り裂かれた葵の保険証と、真しい鍵。 そして『もう、探さないでください』という、乱暴に殴りきされたメモ。
今がどれほど事なだったか、葵が番よくっていたはずだ。 の推薦基準をする、県統模試。 毎晩、机のスタンドライトのかりだけを頼りに、魔と戦いながら過問を解いていたあの子の背を、私はずっと見守ってきた。 その未来すら放りして、あの子はをたのだ。 父親が用した『養子縁組届』という、逃げのない檻から逃れるために。
「おい! 今の話、学からか!?」
ドタドタと乱暴な音をてて、康平が階から駆けりてきた。 昨夜、でをやすと言ってびしていったきり、夜遅くに酒臭い息を吐いて戻ってきた夫だ。まだ目のに鬱血したような隈を残し、苛ちを剥きしにして私の元を覗き込んできた。
「葵はどうした? 模試はどうなったんだよ!」
私は何も言わず、テーブルのの保険証の破片と鍵を指し示した。
康平の線がそこに落ちた瞬、顔面から血の気が引いた。 だが、次に彼のからびしたのは、娘の否を気遣う言葉ではなかった。