"母は死んだと書いた娘" 第8話
になったので、私はち尽くしていた。 放っておく? そんなことができるはずがなかった。 学の調査票に「母はに」「父とのみ」といた葵の孤独。 私のを払い、お弁当すら拒絶してていった葵の背。 あの子は今、この世界のすべてを敵に回して、たったで何かに怯えている。 その原因が、康平の暴と、それに無自覚に乗っかっていた私のにあるのだとしたら。 私はただ傷ついた被害者の顔をして、縮こまっているわけにはいかなかった。
(ちゃんと、葵と話さなければならない)
康平を介さず、庭という息の詰まる密ので。 の都を押し付けるのではなく、あの子が何を恐れ、何を守ろうとしているのかを、真正面から受け止めなければならない。
私は計を見げた。 葵が通う学は、午半に放課を迎えるはずだった。
そのの午、私は駅のドラッグストアにち寄り、葵が普段使っている柑橘系のハンドクリームを買い、それからに学へと向かった。 へと続く杏並は、鮮やかな黄に染まり、たいが落ち葉をカサカサと巻きげていた。 コートのポケットに両を突っ込み、私はからしれた垣のにった。
やがて、終業を告げるチャイムがくで鳴り響き、舎から徒たちが々々、賑やかに吐きされてきた。
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笑い声。部活に向かう音。受験の愚痴を言いう声。 その眩しいほどの常のに、葵の姿を探す。
分ほど待った頃、からで歩いてくる葵の姿が見えた。 友たちと連れつこともなく、俯き加減に、速で歩いている。肩にかけたカバンがそうに揺れていた。
「葵」
私が歩にみて声をかけると、葵のがピタリと止まった。 顔をげた葵の表が、驚愕に歪む。 周囲を歩いていた女子徒の、組が、を緩めてこちらを振り返った。
「な……何してるの」 葵の声はく、周囲を警戒するように震えていた。 「どうして学に来るのよ」
「話がしたかったの。駅のカフェでもいい、どこかしだけ、座って話せないかな」
「嫌に決まってるでしょ!」 葵は吐き捨てるように言い、私の横をすり抜けようとした。 私は咄嗟に、彼女の制の袖にを伸ばした。
「葵、お願い。分だけでいいの。お弁当箱を忘れていったから、お腹も空いてるでしょう」
その瞬だった。 葵は、まるで汚らわしい虫にでも触られたかのように、激しい勢いで私の腕を振り払った。
バシッ、と乾いた音が杏並のに響き渡った。
「触らないで!」
葵の叫び声に、通りかかった徒たちが斉にを止め、怪訝な目をこちらに向けた。 葵の肩が激しくしている。その顔はりで見事に潮していたが、瞳の奥には、剥きしの恐怖が宿っていた。
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「で……いいお母さんぶるの、本当にやめてよ」
葵は周囲の線を気にしながら、歩、また歩とずさりした。 その唇が、震えながら言葉を紡ぎす。
「気持ち悪いの。鳥肌がつ。学にまで押しかけてきて、配する母親の真似事? そうやって周囲にアピールして、私を『な連れ子』にして、自分は『できた継母』になりたいだけでしょ!?」
「葵、そんなこと……!」
「私のことは放っておいて! 頼むから、もう私の界に入らないで!」
葵は叫ぶと、踵を返し、駅とは反対の方向へ向かって全速力でりってしまった。 い通学カバンを両で抱え、制のスカートを翻しながら、逃げるようにざかっていくさな背。
私は、振り払われたを宙に浮かせたまま、そのからくことができなかった。 周囲の徒たちの好奇に満ちた線が、針のように全に突き刺さる。 「気持ち悪い」 「鳥肌がつ」 その鋭利な言葉が、の奥で何度もリフレインしていた。
違ったのだ。 昨夜、私は葵が父親の勝さに絶望し、その反発で私を拒絶したのだとい込もうとしていた。 けれど、違った。 葵は、私自を拒絶していた。 私の気遣い、私の料理、私ののすべてを、「善ぶった押し付け」として、底から嫌悪していたのだ。
たいが吹き抜け、元に黄い杏の葉が散らばった。
私はい取りを引きずりながら、暮れなずむをで歩いて帰った。