"母は死んだと書いた娘" 第7話
その鋭い痛みよりも、康平の平然とした物言いのほうが、よほど神経に障った。
「康平さん、世体の話なんてしていないわ」 私はを止め、努めてを抑えた声で言った。 「あの子の気持ちを聞いたの? あの子がどうして、学の類で私を『しない』にしたのか、その痛みがあなたには分からないの?」
「反抗期に決まってるだろ!」 康平はテーブルをのひらでバンと叩いた。 「にもなって、いつまでもんだ母親に執着してどうするんだ。志保がんでからもうだぞ? しい母親を受け入れてを向くのが、残された者の役目だろうが。あいつのわがままに付きってたら、のがいつまでもにまないんだよ!」
「志保さんのことは、執着なんかじゃないわ」
「おが甘やかすからだ!」 康平は吐き捨てるようにちがった。 「飯ができたら呼べ。それから、その類には今週に署名と実印を押しておけよ。葵の分は、親権者である俺がけば通るんだからな」
康平はそれだけ言い残し、音を荒てて洗面所へと消えていった。
残された台所で、私はめかけた汁巻き卵を見つめていた。 を向く。 しい母親を受け入れる。 康平がにする言葉は、見すると向きで、誰の目にも正論のように映るかもしれない。けれどその実態は、自分の都にわせて族を塗り替え、者を過に押し込めようとする、傲な力技に過ぎなかった。
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そして葵は、その力技に必で抗っていたのだ。 自分のを踏みにじられないために。
パタパタと、階段をりてくるさな音がした。 制を着た葵だった。 髪は乱れなく束ねられ、ブレザーのボタンも番まで留められている。 けれど、その肌はのようにく、目のには濃い隈が落ちていた。昨夜、自でもできなかったのは彼女も同じだったのだろう。
「葵、おはよう」 私はできる限り普段通りの、柔らかいトーンで声をかけた。 「朝ご飯、できてるわよ。お弁当も、ここに置いておくね」
葵はダイニングテーブルのでを止めた。 線が、テーブルの隅に置かれた茶封筒を瞬だけ捉える。その瞳が、凍りついたように細められた。
「……いりません」
「葵、しだけでもべなさい。今は実力テストがあるって言ってたじゃない」
「いらないって言ってるでしょ」
葵は私から線を逸らし、キッチンのカウンターに置かれたお弁当箱にを伸ばした――かのように見えた。 だが、そのはお弁当箱のわずか数センチで静止し、そのまま引き戻された。
「それも、いりません」
「え……?」
「朋代さんが作るご飯、もうべたくないです」
葵の声には、りの揚すら混じっていなかった。 ただ、の底の氷を切りしたような、絶対な拒絶だけがそこにあった。
「葵、待って。
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昨の類のことは、本当に私が勝にめたことじゃないの。お父さんが独断で用したもので、私は昨まで何も――」
「どっちでも同じです」 葵は通学カバンを肩にかけ、玄関へと歩きした。 「朋代さんがってたかどうかなんて、関係ない。結局、このに私の本当のお母さんの居所なんて、最初からなかったってことでしょ」
「葵!」
私が追いかけるよりもく、玄関のドアが乱暴に閉まり、ガチャンと属音が響いた。
静まり返った玄関ホール。 のには、葵が脱ぎ捨てた部履きのスリッパが、片方だけ裏返って転がっていた。 私はそれを拾いげ、胸に抱きしめた。 台所からは、焼き鮭の匂いが虚しく漂っている。カウンターのには、丁寧に包んだ段ねの曲げわっぱが、主を失ったまま静かに湯気を失っていった。
、葵が私の作ったお弁当を残したことは度もなかった。 のも、邪気の運会のも、彼女はいつも空っぽになったお弁当箱を「ごちそうさまでした」と差ししてくれていた。 その唯の細い絆すら、今、完全に断ち切られたのだ。
康平は勤の際、カウンターに残されたお弁当を見て舌打ちをした。 「まったく、気な奴だ。腹が減れば泣きついてくるに決まってる。朋代、放っておけ」 そう言い捨ててをていく夫のろ姿を、私は見送る気にもなれなかった。