"母は死んだと書いた娘" 第2話
そう呼ぶ葵の声に、刺々しい響きはなかった。 が見れば、ぎこちないながらも穏やかで、うまくやっている継母と連れ子に見えていたはずだ。
それなのに。 葵は、学という公ので、私のを完全に消しっていた。 私というは、彼女のに最初からしなかったことにされていたのだ。
「……先、この類の件、私から葵に確認してみます」 私はちがり、くをげた。 「学にご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした」
「いえ、浅井さん、お辛いところを……」 同に満ちた先の線を背に浴びながら、私は逃げるように相談をにした。
が吹き抜ける宅を、私はあてもなく歩いた。 柱のがく伸びている。スーパーのビニール袋をげた所の主婦とすれ違い、無識に会釈を返したが、相の顔はまったく目に入らなかった。
(どうして?)
胸の奥で、同じ問いが壊れたレコードのようにぐるぐると回り続けていた。 嫌われていたのだろうか。 私の気遣いが、のすべてが、あの子にとっては息の詰まる押し付けだったのだろうか。 「母がんで父と」といた、葵はどんな顔をしていたのだろう。 迷いはなかったのか。 ペンを握るは、しも震えなかったのか。
に辿り着くと、静まり返った玄関が私を迎えた。
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靴を脱ぎ、リビングに入る。 いつもと変わらない景だ。ダイニングテーブルのには、葵が今朝み終えたマグカップがきちんと伏せて乾かしてある。キッチンのコルクボードには、来の修学旅の案内と、私がき留めた葵の予防接種の予定表が並んでピンで留められている。
私はキッチンのにち尽くし、乾いたシンクを見つめた。 りよりも先に、底れぬ虚しさと恐怖が込みげてくる。 私はこので、体誰だったのだろう。 ただの無償の政婦だったのか。 都よく常をえてくれる、名のない同居に過ぎなかったのか。
午半、玄関の鍵がく音が響いた。
「ただいま戻りました」
靴を揃える音。続いて、制の擦れる擦れの音がづいてくる。 葵だった。 肩まで伸びた黒髪をひとつに束ね、そうな通学カバンをに持っている。 その顔には、罪悪の欠片も、怯えのもなかった。
「おかえり、葵」 私はいつも通りのトーンを保ちながら、振り返った。 「今、学に呼ばれてってきたわ」
葵のが、リビングの入りでぴたりと止まった。 けれど、揺したのはほんの瞬だった。 彼女は静かに線をげると、私をまっすぐに見つめ返した。その瞳は、まるで底のれない黒いのように澄んでいて、何も映ししていなかった。
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「そう」 それだけだった。 「どうしてあんなこといたの、って聞かないのね」 私の乾いた声に、葵はく唇を引き結んだ。
「浦先に言われたんでしょ。だったら、朋代さん、もうってるじゃない」 「理由を聞いているの」 声が震えそうになるのを、必で抑え込んだ。 「お母さんがくなって、お父さんと暮らしだって……全徒が見るわけじゃないとしても、公な調査票よ。私のを、どうしてなかったことにしたの?」
葵はカバンをに置き、ブレザーのポケットにを入れた。 その仕は、歳の女とはえないほどえ切っていた。
「事実をいただけです」 「事実?」 「私の戸籍の親は、お父さんです。実のお母さんは、私が歳のににました。そこに嘘はひとつもありません」
「葵……私は、あなたと暮らしてきたのよ。毎ご飯を作って、あなたのを洗って、学事にもって……」 言えば言うほど、惨めさが喉の奥をせりがってきた。恩着せがましい言葉を吐きたくはなかった。けれど、言わずにはいられなかった。自分のそのものを否定された痛みが、理性を焼き切ろうとしていた。
「頼んだ覚えはありません」 葵の声は、どこまでも平坦だった。鳴るでもなく、嘲笑うでもなく、ただ事実を陳列するように言葉を紡ぐ。
「朋代さんが勝にやってくれたことです。
謝はしてます。美しかったし、助かりました。でも、だからって……朋代さんが私の母親になるわけじゃないでしょう」