"十四歳で板前奉公へ――少年が料理人になるまで" 第10話
健太が興を示した。
「の何してたの」
「働いてた」
「嘘」
「本当だ」
「学は?」
「終わり」
健太は信じられない顔をした。
「で?」
「そういう代もあった」
健太はしばらく考えた。
「嫌じゃなかった?」
正は箸を止めた。
子どもには、
努力すれば全部報われる。
昔は皆苦労した。
そんな綺麗な話にしたくなかった。
「嫌だったよ」
健太が驚く。
「学きたかった」
「じゃあ、何で料理になったの」
「最初は、ならされた」
正は笑った。
「途から、自分でなった」
その違いを、健太に分かってほしかった。
数。
健太が改まった顔で言った。
「父さん、俺、へきたい」
正は瞬黙った。
歳の。
自分が言えなかった言葉。
言っても通らないとっていた願い。
今、息子が正面からにしている。
「どこだ」
学名を聞く。
健太が答えた。
「け」
正は言った。
健太が目を丸くした。
「いいの?」
「きたいんだろ」
「でも」
「は俺の仕事だ」
「継がなくていいの?」
文が正を見る。
正はし胸が痛んだ。
本当は、
いつか息子が隣につ姿を像したことがある。
自分のを継いでくれたら。
そうわなかったわけではない。
だがそれは、
父が歳の自分へしたことと同じ入りになる。
「健太」
「何」
「を継ぐかどうかも、おが決めろ」
息子は黙った。
「今は勉したいなら、そっちへけ」
健太はさくをげた。
「ありがとう」
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正は湯呑みの茶をんだ。
父が自分へ返せなかった歳のを、
自分は息子へ渡せた。
そんな気がした。
しかし数。
正はもう度、
もっと難しい選択を迫られる。
を卒業する健太が、
「学へきたい」
と言ったのではない。
「料理にはならない」
とはっきり告げたのだ。
健太は業系の学へみたいと言った。
械が好きだった。
幼い頃から計やラジオを分解しては、文に叱られていた。
でも技術の授業が好きだった。
「料理は嫌いなのか」
正は聞いた。
「嫌いじゃない」
「が嫌か」
「そうじゃない」
健太は困った顔をした。
「でも、俺がやりたいのはこれじゃない」
その言葉は分かる。
分かるはずだった。
それでも正の胸は痛んだ。
何も続けてきた。
簾。
包丁。
自分がから作ったもの。
誰かへ残したいとう。
「しくらいを伝ってから決めても」
言いかけた。
文が静かに正を見た。
正はを閉じた。
歳の。
《もう決まった》
父の声が蘇る。
自分は今、同じことを言おうとしている。
「分かった」
健太が驚いた。
「いいの?」
「おのだ」
にすると、胸のの何かがし軽くなった。
健太は学へんだ。
やがて町をれ、会社へ入った。
へ戻ることはなかった。
寂しかった。
それでも正は、息子が帰省するたび、
仕事の話を聞いた。
械の設計。
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しい。
正には分からない言葉もかった。
それでも健太が話すの目は、
初めて包丁を握った頃の自分と似ていた。
好きなものを見つけたの目だった。
ある。
寅吉の訃報が届いた。
かなりにを畳み、静かに暮らしていた。
正は葬儀へった。
女将はすでに数にくなっていた。
棺ので、
正はいをげた。
「親方」
声にはさなかった。
「俺、まだやってます」
歳。
雑巾。
汁。
包丁。
魚。
独。
全部の始まりがあのだった。
帰宅。
正はを閉めたもで板に残った。
古い包丁をす。
刃はさくなっている。
何度も柄を替えた。
それでもに持つと、昔の覚が蘇る。
「何見てるの」
文が入ってきた。
「親方にもらったやつ」
「まだ使ってるの」
「たまに」
文は隣へ座った。
「あなたも取ったね」
「お互い様だ」
で笑った。
その数。
今度は文が病気になった。
と病院を往復する々が続いた。
「閉めてもいいのよ」
文が言う。
「まだやる」
「無理しないで」
「おが番それ言うな」
文は笑った。
い治療の末、文は回復した。
しかし正はその初めて、
を永には続けられないと考えるようになった。
自分がいなくなれば、
この簾も終わる。
以なら寂しかった。
今はし違う。
終わるものがあるのも、
なのかもしれないとえるようになっていた。
正がを過ぎた頃。
の若者がへ来た。
「働かせてください」
歳の青、誠だった。
料理学をたわけではない。
を辞め、仕事を転々としてきたという。