"昭和40年、15歳で東京へ出た少年" 第5話
背広を着たの男たちが、名簿と元の写真を突きわせながら、声でたちの名を呼び集めていました。 「おい、田からの連はこっちだ!」 「荷物をまとめたら、列に並べ!」 「点呼を取るぞ、返事をしろ!」
テレビカメラを担いだ報陣や、型のストロボを焚く聞記者たちの姿もありました。黒フィルムの閃が焚かれるたび、方から着いたばかりのたちは目を眩ませ、を縮めました。 度経済成の波に乗り、躍な拡を続ける首都・京の製造現において、方の卒者たちは「素直で、忍耐く、賃で文句を言わずに働くの卵」として、喉からがるほど求められていたのです。
「君、朝倉ミノル君だね?」
突然、混みの向こうから声を掛けられ、ミノルはビクッと肩をねさせました。 見げると、作業着のから茶いジャンパーを羽織った、代半ばほどの柄な男がっていました。胸には『協精製作所』という刺繍が施されていました。 「は、はい! 朝倉ミノルです!」 ミノルが直になって学の襟元を正すと、男はふっと目元を緩めました。 「旅、ご苦労さんだったな。かったろ。荷物、いな、つ貸しな」 そう言って、男はミノルのい布鞄を軽々とひったくるように持ちげてくれました。のきなの平に触れた瞬、ミノルは胸の奥を締め付けていた鉄の輪が、ほんのしだけ緩むのをじました。
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改札ので、列ので隣同士だったあの女の姿が目に入りました。 彼女は『紡績』とかれた旗のに、数の同代の女たちと共に列させられていました。 ミノルが目を留めたのに気づいたのか、女がふとこちらを振り返りました。 の線が、混みを越えて瞬だけ交差しました。 ミノルはさくを挙げました。女もまた、胸のに抱えた呂敷包みので、微かに指先をかしました。 「元気でな」 声にはせませんでした。けれど、その差しのに、あの夜列の暗を共にき抜いた者だけの、無言の連帯がありました。女の列は、引率の女性に促されてに改札のへと消えていきました。 名すら最までることはありませんでした。もう度と、この巨な京ので会うことはないはずでした。それでも、あの女もまた、どこかので自分と同じように歯をいしばってきるのだといういが、ミノルの胸にさなを灯しました。
駅広へると、たい混じりのが吹き抜けていました。 ミノルが案内されたのは、駅のにめられていた台の型輪トラック――オート輪の荷台でした。 荷台にはすでに、同じに配属されるらしい別のが、膝を抱えて座っていました。
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「乗んな。元、滑るから気をつけてな」 迎えの男性――の主任である田に促され、ミノルは荷台へといがりました。
ブルルン、とけたたましい排気音をててオート輪が発しました。 荷台が激しく揺れ、たいがミノルの頬を容赦なく叩きます。 見げる京の空は、故郷の々を包んでいたい青空とは異なり、無数のの煙突から吐きされる煙によって、どんよりとしたに濁っていました。 の両側には、見たこともないほどいコンクリートのビル群が連なり、には型トラックやバス、自用が途切れることなくクラクションを鳴らしながら疾していました。 歩を歩く々は、誰もがで、だけを見つめて通り過ぎていきます。
トラックが町へとむにつれ、の匂いが刻々と変化していきました。 排気ガスの咽せるような臭気、どこかの堂から漂う油の匂い、そして隅田川の支流を渡る際にじた、黒く淀んだ川の臭い匂い。 「これが、俺の暮らすなんだ……」 ミノルは、オート輪の製のあおりを指先がくなるほどく握りしめました。 信号で止まるたびに、赤から青へと規則正しく切り替わる信号のを見つめました。信号というもの自体、にはつもありませんでした。
やがてトラックは、トタン根の造とさな町がびっしりと軒を連ねる、区の角へと入っていきました。