"「貧乏男」の通帳に5億円" 第13話
自分のための1万2000円
蓮さんは試着ので値札を裏返し、しばらく見つめていた。1万2000円。濃い緑の着には、首まで閉まるファスナーと、いポケットがついていた。
「これなら、もうしいのもあるんじゃないかな」
「比べてみよう。でも、値段だけで決めなくていいよ」
休の料品は族連れで混んでいた。私は通の端へよけ、夫が自分でハンガーを戻したり、別のをに取ったりするのを待った。普段なら修繕の具は迷わず選ぶが、自分のとなると何度も私を見た。
員がサイズ違いを持ってきた。蓮さんは2着を試し、腕を伸ばしてから、最初の緑を鏡ので着直した。
「肩が、こっちの方がかしやすい」
「うん。似ってる」
夫は胸元を押さえ、鏡のの自分を見た。襟元からが入らない、とさく言った声が、妙に嬉しそうだった。
隣の売りでは、かかとの減った靴も替えた。7800円の靴を履き、内をし歩いて戻ってくる。いつものように、まだ履けるからと言いかけたが、古い靴底を指でなぞってを閉じた。
「の、滑ってたんだよね」
「それは、先に言ってほしかった」
私が答えると、夫は照れたように笑い、しい靴を員へ渡した。
わせて1万9800円は、2で決めていたの予算から払った。会社の経費にも、誰かを支えるために分けたおにも付け替えなかった。
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レシートを財布に入れる姿を見て、ようやく予算に本が入った気がした。
帰宅すると、蓮さんは紺の古い着を脱ぎ、膝のに広げた。私は収納袋を1枚して、横へ置いた。
「また、着たくなるがあるかもしれない」
「そのは着ればいいよ。毎寒いのをしなくても、なくならないから」
彼は沢とかれた襟を撫でた。袖の形をえ、湿気がこもらないよう、次の気のいいに干ししてからしまうと言った。私は袋を押し入れのへ置き、が届く所を空けた。
その夕方、会社の話が鳴った。蓮さんはちかけてから、壁に貼った当番表を見た。今は、週末の連絡を社員で交代して受けることになっていた。
担当のさんから、洗濯の排について相談があり、確認して対応したとい報告が届いた。蓮さんは必なことだけ返信し、携帯を伏せた。
「俺がかなくても、ちゃんと終わった」
「さんの仕事だもの」
夫は頷き、蔵庫から野菜をした。今は彼が夕飯を作る番だった。私は翌週の斗印刷の予定を確認し、仕事用の鞄へ帳を戻した。
宅の仕事を伝うも、改めて決めていた。基本は週末の半で、森さんがまとめた資料を見る。平の急ぎの用件は会社で判断し、私の返事を待たない。との面談のようにが必なだけ、もって相談する。
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「次の週末は、友達とかけるんだよね」
「うん。だから資料は、その次に見るね」
「分かった。森さんにも伝えておく」
それで話が済んだ。私は台所へき、夫が切ったきめの参を鍋へ入れた。
事の途で、蓮さんが今は眠くなってきたと言った。支援の話を待ちながら机に座っていた夜とは違い、箸を置いて湯呑みに両を添えている。べ終わったら呂を沸かそうと答えると、彼は素直に頷いた。
数、姉からい連絡が来た。
『2号はやめました。真帆と相沢さんに、会って話したいことがあります』
私はすぐに返事をせず、帰宅した蓮さんにも見せた。会うを決め、資の相談を再するつもりはないと返信した。姉からは、分かっていますと返ってきた。
約束の、玄関をけると、姉が1でっていた。いつもの完成予図のファイルも、母の姿もなかった。
「今は、おをお願いしに来たんじゃないの」
姉はそう言って、私たちの顔を順に見た。にしていたのは、しいの計画ではなく、送信済みのメッセージを印刷しただった。