"車椅子の姑を1年間介護したのに、遺産は1円もいらない嫁が家を出た日" 第4話
68万4320円
翌朝10、綾は弁護士の佐藤美咲と向かいっていた。
学代からの友でもある美咲は、包帯の巻かれたを見ると、慰めの言葉より先に診断と領収を確認した。に流されないその態度が、今の綾にはありがたかった。
会議机のには、126ページの介護記録、医療用消耗品の領収、計簿アプリの印刷、の振込履歴、族チャットの画面が系列に並べられていた。
窓のでは、勤する々が途切れず交差点を渡っていた。綾はその流れを眺め、自分も1までは毎朝このに教材を抱えてへ乗っていたことをいした。黒板に向かっているだけは、自分の声が誰かに届いているという実があった。
教員免許状も、3分の勤務評価も失ってはいない。途切れた経歴をもう度つなげることは簡単ではないが、戻るそのものまで芳子たちに奪われたわけではなかった。
美咲は付箋を貼りながら、1つずつ事実を分けていった。
「まず確認するけれど、芳子さん名義の世田のは、今回の婚で綾が求める財産ではない。それでいいのね」
「もちろん。最初から欲しくないわ」
「介護をに換算した額も、そのまま未払い賃として請求できるわけではない」
「分かってる。おにしたいんじゃないの。無料だったから価値がないとわれているのが、もう嫌なの」
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美咲はうなずき、別の箱へ資料を移した。
法律の請求と、田が失ったものを化する数字は分けて扱う。介護の代替費用は者だ。方、綾が自分の預からて替えた介護、吸用品、通院交通費、福祉用具の部には、付と支払先が残っている。
「芳子さんの座からた費用、健太さんの族カードで払った分、あなた自の預からした分。ここを混ぜたら、相に全部曖昧にされる」
美咲は3の付箋で支払者を分けた。綾が自腹で購入した体圧分散マットの控えには4万5800円、透析の介護タクシーには片料が残っている。きの記憶ではなく、領収と記録が互いを支えていた。
美咲は卓を打ち、計欄に線を引いた。
「これは返還を求める。婚姻の共同財産も、預、保険、記録まで全部確認する。婚届1枚で終わらせないわ」
美咲は同に、過度な期待を持たせないよう釘を刺した。資料をせば翌に勝敗が決まり、座が自に凍結されるわけではない。話しいがまとまらなければ、庭裁判所でをかけて理することになる。
「それでもめる?」
「める。がかかっても、あのに戻るよりずっといい」
綾はさく息を吐いた。昨まで、自分がっていることさえ贅沢だとっていた。芳子の病気をにすれば、眠れないことも腰痛も、教師としての将来もすべきだと考えていた。
だが机に並んだは、彼女がかった証拠ではなかった。
毎逃げずに働いた証拠だった。
美咲が族チャットの印刷を持ちげた。そこには半、綾が週末だけでも交代してほしいと頼んだの返信が残っている。
《私は嫁にただから》
《男夫婦が同居しているんだから当然》
《仕事が忙しい。介護は無理》
「昨夜から、健太さんは17回話をかけてきた。でも、あなたの傷については度も聞いていない。これも保しておきましょう」
美咲は最に、替の覧を綾のへ向けた。
計68万4320円。
1分の領収が、1円の誤差もなくその数字を支えていた。