"継母が私に遺した「価値ゼロ」の古民家" 第4話
ポケットから真鍮の鍵を取りし、油気の切れた鍵穴に差し込む。
ギギギ……と錆びた鉄が軋む鈍い音が静寂を破り、鍵が回った。
両で力を込めて製の引き戸を横に引くと、数分のカビと埃、そして淀んだ気が、気にの顔を包み込んだ。
「うっ……」
わず元を覆ったは、リュックから防マスクと軍を取りして装着した。
玄関に荷物をろし、靴を脱いで板張りの廊にを乗せる。ギシッ、と板が穏な軋み声をげた。うっすらと積もったの埃のに、の跡だけがくっきりとい輪郭を描いていく。
内は暗く、戸の隙から細いの筋が何本も差し込んでいた。
台所の蛇を恐る恐るひねってみると、最初は赤茶のが噴きしたが、しばらくしっぱなしにしていると、やがて澄んだ井戸が勢いよく流れした。
「よかった、はる……」
は持参した折りたたみバケツにを汲み、雑巾を固く絞った。
ここで途方に暮れていても何も始まらない。相続放棄の判断をすにしても、まずはのの遺品や類を確認し、固定資産税の納税通などを探さなければならない。
はの戸を力任せにけ放った。
吹き込んできた初の薫が、のに充満していたんだ空気をしずつへと押ししていく。
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箒をに取り、井の蜘蛛の巣を払い、の埃を掃きしていく。黒ずんだ廊の板を雑巾で何度も拭きすると、古い良質なヒノキの目がうっすらと蘇ってきた。黙々と体をかしているだけは、義兄たちの嘲笑や、母に裏切られたのではないかという暗い疑惑を忘れることができた。
玄関から台所、居の掃除を終える頃には、すでに正午をきく回り、の全は汗でびっしょりと濡れていた。
「ふう……次は、奥のね」
息をえながら、は廊の突き当たりにある畳のの襖をけた。
そこは、のが届きにくい暗い空だった。壁の砂壁は所々が剥がれ落ち、井には古い漏りの跡が丸い染みを作っている。古いイの独特の匂いがをつく。
は部の隅から順番に箒をらせていった。
シャッ、シャッ、と規則正しい音をててむうち、の裏が、奇妙な違を捉えた。
古い造の畳は、が乗るとわずかに沈み込み、踏みしめるたびに「ミシッ」との板が軋む音がするものだ。この部の畳も、歩くたびに柔らかく沈んでいた。
しかし――部の央に敷かれた、たった枚の畳だけが違っていた。
「……あれ?」
はその畳のに両でってみた。
沈み込まない。まるで、畳のに極めて頑丈なコンクリートの塊か、分い鉄板でも敷き詰められているかのように、裏に伝わる触がたく、完全に直していた。
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体をかけてねてみても、切の軋み音すらたない。
議にい、はそのに膝をついて畳の表面を観察した。
周囲の畳と見分けがつかないよう、同じように焼けして古びた加が施されている。しかし、畳の縁の隙をよく見ると、周囲に溜まっているはずの綿埃が、この枚の周りだけ自然に途切れていた。
さらに、その畳の角が、の面よりもわずか数ミリほど浮きがっている。
まるで、つい最になってから、何者かが図に敷き直したかのように。
の臓が、トクンと嫌な音をてて脈打ち始めた。
軍をはめた指先を、そのわずかに浮きがった畳の隙に差し込む。指先に力を込め、全の筋肉を緊張させてへと引きげた。
ズズッ……とい摩擦音が響き、畳の片側がゆっくりと持ちがった。
畳を隣のスペースへとずらして退けた瞬、はマスクので息を呑んだ。
そこに現れたのは、通常の本にあるようないベニヤ板のではなかった。
の枠組みのに隙なく嵌め込まれていたのは、漆黒の塗料で防腐処理が施された、異様なみを持つ巨な枚の無垢の鉄板だったのだ。
そして、その黒い鉄板の隅には、の親指ほどもある極太の角ボルトが、寸分の狂いもなくの梁に向かってく打ち込まれ、完全に固定されていた。