"20年の仕送りを止めたら、義母の嘘が暴けた" 第12話
『息子夫婦に捨てられたれな母親』を演じようにも、親族に千万円の蓄えと賃収入のがれ渡ってしまったため、誰も同する者はいなかった。それどころか、「男の嫁からもを巻きげていた欲婆さん」という悪評が所帯に広まり、隣民からもい目で見られ、でも戸を固く閉ざして引きこもる活を余儀なくされているという。
千鶴は受話器を置き、静かに目を閉じた。
自業自得、因果応報。
誰かを騙し、誰かの犠牲のに築きげた偽りの幸福は、真実のが筋差し込んだだけで、これほど脆く崩れるものなのだ。
千鶴のには、復讐を遂げた歓など微もなかった。
ただ、というすぎる悪から、ようやく覚めることができたという、静かな堵だけが広がっていた。
あの騒から、季節は巡り、穏やかなが訪れていた。
ベランダのプランターでは、千鶴が丹精込めて植えたとりどりのパンジーとチューリップが、柔らかなの陽を浴びて瑞々しく咲き誇っていた。
曜の朝、ダイニングにはばしい焼き魚の匂いと、炊きたてのご飯の湯気が漂っていた。
「正さん、朝ご飯できたわよ」
千鶴が声をかけると、居で聞を読んでいた正が「お、うまそうだな」と笑顔で卓についた。
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以の正の顔にあった、母親への気兼ねや実の問題に押し潰されそうになっていた疲労のは、完全に消えっていた。定を迎え、再雇用として働き始めた夫の表には、の自した活者としての穏やかな落ち着きが宿っていた。
毎万円という荷から解放された千鶴たちの計には、劇な変化が訪れていた。
これまでパート代のほとんどを義母への送に充てていた千鶴は、労働数を週に減らし、空いたでのだった彩画の教へ通い始めていた。
「千鶴、来の連休だけどさ」
正が噌汁を啜りながら、旅雑誌の切り抜きをテーブルのに広げた。
「子供たちも誘って、久しぶりに族で信州の温泉でもかないか? 今までおには苦労ばかりかけて、まともな族旅もさせてやれなかったからさ」
千鶴は目元を緩め、夫の顔を見つめた。
「嬉しい。子供たち、ぶとうわ。……でも、贅沢しすぎないようにしましょうね。私たちのこれからの老資も、ちゃんと貯めていかなきゃいけないんだから」
「分かってるよ。俺たちには、に誇るようなはないけどさ……自分たちで汗垂らして稼いだおで、の丈にった暮らしをするのが番幸せなんだって、今さらながら痛したよ」
は顔を見わせ、自然と笑い声を漏らした。
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実のキミ子のそのについて、先週、佐々さんの奥さんからが届いていた。
キミ子は現、あれほど執着していた見栄や聞を完全に諦め、贅沢なや旅も切やめ、自分の遺族と賃収入の範囲内で、慎ましく質素な暮らしを続けているという。
派な着物を着飾ることもなくなり、所のスーパーでも見切り品の野菜を自分でカゴに入れ、周囲の目を気にすることなく静かに買い物を済ませているそうだ。
『千鶴さん、キミ子さんね、最し顔つきが穏やかになったのよ。昔の、まだお父さんがきてらした頃の、普通の優しいおばあちゃんに戻ったみたい。……誰かに見栄を張る必がなくなって、自分のの丈できるようになって、ようやく肩の荷がりたのかもしれないわね』
に記されたその節を読んだ、千鶴の胸の奥に残っていた最のかだかまりが、静かに溶けていくのをじた。
仕送りを止めたことは、義母を兵糧攻めにして懲らしめるための復讐ではなかった。
あのまま甘やかし、を垂れ流し続けていれば、義母はぬまで傲な見栄の化け物としてき、久美は母親に寄する無能なとして堕落し続けていただろう。
、千鶴が捧げ続けた千百万円は、決して無駄な犠牲ではなかった。
その途方もない歳の果てに、千鶴自が自らの尊厳を取り戻し、夫との真の絆を結び直し、そして義母をも自した個のに引き戻すための、過酷な代償だったのだ。
千鶴は窓をけた。
よいのがリビングを吹き抜け、カーテンを優しく揺らした。
くの空を見げながら、千鶴はので静かに呟いた。
――お義父さん。私、自分のを、自分のでしっかりと歩き始めましたよ。
卓に戻ると、正が笑顔でしいお茶を淹れて待っていた。
誰かに搾取されることもなく、誰かの顔を窺うこともない。
自分たちので耕し、自分たちの力で守り抜いた、穏やかで温かい常。
千鶴は湯呑みを両で包み込み、満ちりた笑顔で、しいののへと歩みしていった。