"夫の通帳を奪った義母が銀行で凍りついた日" 第1話
初のたい朝靄が、宅の根瓦をく濡らしていた。 築の造本。畳の仏に漂う線のりは、昨の法で親族たちが焼した檀の苦しい残りだった。
宅久子(みやけ・ひさこ・歳)は、台所のたいで絞った布巾をに、仏壇のに正座していた。 真鍮のりん、て、そして夫・幸(享)の遺を、端から順に丁寧に拭き清めていく。写真のの幸は、創業を迎えた宅務の職たちに囲まれ、し照れくさそうに笑っていた。普段から無で、カメラを向けられるといつも線を逸らしてしまうだった。
「幸さん、やっとが終わったわよ」
久子がさく呟いたそのだった。 ガララッ、と玄関の格子戸が乱暴に引きけられる音が、静まり返ったに響き渡った。
「おい、いるんだろう!」
靴を脱ぎ散らかす音とともに、ドカドカと踵をく打ちつける音が廊を軋ませながらづいてくる。久子が振り返るもなく、仏の襖が勢いよくけ放たれた。
っていたのは、幸の母である宅よし(歳)だった。 を過ぎているとはえないほど血ったで、派なのウールコートの胸元をかきわせ、仏壇のにつ久子を睨みつけている。
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その背には、同じ内にむ幸の弟・茂(しげる・歳)が、コートのポケットに両を突っ込んだまま気まずそうにっていた。
「お義母さん、茂さん。おはようございます。お茶をお淹れしますから、居へ――」
久子がちがろうとすると、よしはそれをで遮り、ずかずかと畳を踏み荒らして仏壇の正面へと割り込んできた。線のが落ちた座布団を先で押し退け、仏壇の段にある漆塗りの引きしにを伸ばす。
「お茶なんぞいらないよ。挨拶に来たんじゃないんだからね」
ガタピシと音をて、よしは力任せに引きしを引いた。て付けが悪く、最をし持ちげないとれない引きしを乱暴に揺さぶり、にあった鏡ケースや領収の束を掻き分ける。そして、青いビニールカバーのついた冊の預通帳を鷲掴みにした。
「あったわ。これよ」
よしは通帳の表を広げ、「宅幸」という名義を確認すると、満げに品な笑みを唇の端に浮かべた。
「息子の通帳は、こっちで管理させてもらうよ」
「……お義母さん、それは夫が使っていた座です」
久子はち尽くしたまま、静かに告げた。よしは通帳を掲げ、まるで万引き犯を糾弾するかのような調子で声を張りげた。
「ってるよ! だから私が持っていくんだよ! あんたなんかに持たせておいたら、どうせ自分の実や趣に使い込むだけに決まってるじゃないか! 宅のが稼いだ血と汗のはね、宅のが管理するのが筋ってもんなんだよ!」
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久子は息をえながら、目のの義母をじっと見つめた。
夫の幸に末期の膵臓癌が見つかってからの、過酷を極めた半の景が、馬灯のように脳裏をよぎる。 術は能と告げられ、にに衰していく夫を自宅で病し続けたのは久子だった。激痛に呻く背を夜通しさすり、がれば氷枕を替え、喉を通らなくなった夫のためにしでも栄養のあるスープを夫して作り続けた。抗がん剤の副作用で夫の体が落ちていくのと比例するように、久子自の体もキロ落ちた。
その半の、よしは度たりとも見いに来なかった。 でわずか分の距にんでいながら、「病気の顔を見るのは気が滅入る」「忙しい」と言い訳を並べ、息子の容態を気遣う話本寄こさなかった。茂に至っては、顔をしたのはを無に来た回だけだった。
それなのに――昨のが終わった途端、翌朝番に駆け込んできて、真っ先にを伸ばしたのがこの通帳だった。
「おい、久子。聞いてんのかい?」
よしは通帳を自分のハンドバッグにねじ込み、ジッパーをジャーッと乱暴に閉めた。属の噛みう音が、仏に鋭く響く。
「文句があるなら言ってみなさいよ。それとも、私が預かるのが満だって言うのかい?」