"母の保険金3,000万円、夫は「もう諦めろ」と言った" 第12話
「見なさいよ! これが証拠よ! こいつと交わしたLINEの履歴よ!!」
麻紀は画面を凝した。スクロールされる画面には、背筋が凍りつくようなの会話が並んでいた。
『幸介:投資の追証でどうしても1,200万いるんだ。頼む、姉貴の会社の運転資ってことにして麻紀から借りてくれ。あいつ今、母親がんで精神に参ってるから、族の絆とか言えば簡単に落ちる』
『佳代:でも、もし返せなかったらどうすんのよ? 千万なんて、うちの会社だって返せないわよ?』
『幸介:返さなくていいんだよ。あいつは世らずのただの主婦だ。最は「内の」に訴えて泣き落とせば、絶対に諦める。俺がうまく言いくるめて泣き寝入りさせるから、絶対に丈夫だ』
「……泣き寝入りさせる……」
麻紀の喉の奥から、乾いた言葉が漏れた。
母が息を引き取った夜、麻紀の肩を抱き、「で事にしていこう」と囁いた夫。
あの温かいの触も、優しい差しも、すべては妻の母親の遺産を奪い取り、自らの愚かな投の穴埋めをするために計算された、酷な罠だったのだ。
「……幸介」
麻紀が静かに呼びかけると、取っ組みいをやめた幸介が、怯えた野良犬のような目で麻紀を振り返った。
「お母さんがくなった、あなたは言ったわね。『困ってる族を助けるのが助けになる』って。……私の母はね、あなたの勝なギャンブルの借を帳消しにするために、病のベッドで痛みに耐えていたんじゃないわよ!!」
広告
麻紀の全から迸るりの咆哮が、オフィスを震わせた。
これまで度も夫に声を荒らげたことのなかった妻の、魂の底からの叫び。
幸介の膝がガクガクと震え、彼はそのに崩れ落ちるように正座した。
「ま、麻紀……悪かった……! 俺が馬鹿だった! でも、本当におを騙すつもりじゃなくて……投資で勝って、倍にして返そうとってたんだ! 見捨てないでくれ、やり直そう! 夫婦だろ!?」
幸介はに額を擦り付け、ボロボロと涙とを垂らしながら麻紀の靴先に縋り付こうとした。
しかし、麻紀は歩もかず、そのを徹に踏みつけんばかりの勢いで拒絶した。
「触らないで」
その言は、氷の刃のように幸介の胸郭を貫いた。
「先。夫・浦幸介に対しても、連帯保証債務の履請求、ならびに法為に基づく損害賠償請求の続きを、直ちにめてください。この男の個座、与、退職に至るまで、法に差し押さえられるものはすべて差し押さえてください」
「かしこまりました。速やかに裁判所へ続きを移します」
弁護士が類を鞄に仕い、礼した。
「あ……あああ……」
幸介はに突っ伏したまま、絶望の叫び声を漏らした。
していたはずの妻は、もうどこにもいなかった。そこにっていたのは、自らの命を削って娘を守った母の志を受け継ぎ、裏切り者たちを徹に断罪する、の誇りき女性だった。
広告
あの制執の朝から、という歳が静かに流れた。
初の柔らかなが、川沿いの遊歩に植えられた青葉をサワサワと揺らしている。
麻紀は、駅から徒歩分ほどの所にあるさな賃貸マンションのリビングで、淹れたての質な緑茶を湯呑みに注いでいた。
リビングのい飾り棚のには、優しく微笑む母・文子の遺が飾られている。写真のには毎朝欠かさずしいがけられ、さな炉からは檀の清らかな煙がまっすぐに井へと昇っていた。
幸介との婚は、事件から半に正式に成した。
真相をった義父と義母のりは凄まじいものだった。麻紀から公正証と細のコピーを提示された義父は、そので幸介と佳代を勘当し、「度と浦の敷居を跨ぐな」と鳴りつけたという。世体と親族の対面をんじていた両親にとって、息子と娘が共謀して嫁の母親の遺産を詐欺同然ので奪い取ったという事実は、耐え難い恥辱だったのだ。
佳代のイベント会社は、取引先への売掛差押えによって信用が完全に失墜し、主なクライアントから次々と契約を打ち切られた。倒産こそ免れたものの、オフィスを引き払って郊の雑居ビルのへ移転し、従業員も全員解雇して、現は細々とで営業を続けているという。