"母の保険金3,000万円、夫は「もう諦めろ」と言った" 第5話
その横顔を見つめる麻紀の胸には、もはやの欠片も残っていなかった。
(このたちは、最初から母のおを狙っていたんだわ……)
母の病に通い、をすり減らしていた麻紀の姿を、幸介はどのような目で見ていたのか。「無理するなよ」と言って淹れてくれたお茶の温もりすら、すべては母がくなったに転がり込むであろう遺産をスムーズにに入れるための、計算された演技だったのではないか。
暗ので、たい絶望が麻紀の考を研ぎ澄まさせていった。
もし、に任せてこのまま拒絶し続ければどうなるか。
幸介は違いなく義両親を巻き込み、「酷な嫁が族を見殺しにした」と親族に吹聴するだろう。庭内は針の筵となり、精神に追い詰められて最終におを奪われるか、最悪の、勝に通帳や実印を持ちされる危険すらある。
「……ただでは渡さない」
麻紀は暗ので拳を握りしめた。
翌朝、麻紀は幸介に向かって静かに告げた。
「お義姉さんに、千万円をお貸しします」
幸介の顔が瞬で輝いた。「本当か!? よかった! 麻紀なら分かってくれるとってたよ!」
「ただし、条件があります」
麻紀は徹な差しで幸介の歓を遮った。
「約束や、簡単な借用では円もかせません。公証役へき、法な効力を持つ【公正証】を作成します。
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返済期はきっかりかの末。そして、あなたにも連帯保証として署名・捺印をしてもらいます」
幸介の笑顔がわずかに引きつった。
「こ、公正証……? 内相に、そこまでげさにする必あるのかよ?」
「当たりです。千万円です。族だからこそ、で揉めないように黒はっきりさせておくべきでしょう? かで確実に返せるのなら、公正証にサインすることに何の問題もないはずよね?」
麻紀が真っ向から正論を突きつけると、幸介は「あ、ああ……まあ、そうだな。姉貴もかで返すって言ってるしな」と、それ以は反論できなかった。
そののうちに、麻紀は内の法律事務所を訪れた。
相談に乗ってくれたのは、代半ばのベテラン弁護士・だった。
事を聴いた弁護士は、く眉根を寄せ、元のメモ用にペンをらせた。
「浦さん、内での千万円の貸し付けは極めて危険です。しかし、どうしても貸さざるを得ない状況であるならば、公正証を作成するのは絶対の最防ラインです。そして、必ず【制執認諾文言】を盛り込んでください」
「制執認諾文言……ですか?」
「ええ。これを入れておけば、もし約束の期に返済がなされなかった、裁判を起こして判決を待つというい続きをすべてスキップできます。
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直ちに裁判所へ申してをい、相の預座、会社の売掛、産などの財産を差し押さえることができるのです」
弁護士の静な説に、麻紀は力く頷いた。
「お願いします。相の個の財産だけでなく、彼女が経営する会社の売掛やメインバンクの座も、確実に差し押さえの対象にできるように文面を組んでください」
「承いたしました。……それにしても、ご主の側がよくこの条件をみましたね。内相にここまで隙のない制執条項をつけることを、すんなり受け入れるケースは珍しいのですが」
弁護士が漏らした呟きに、麻紀の胸の奥でさな警報が鳴った。
数、公証役のなに、麻紀、佳代、そして連帯保証となった幸介のが集まった。
公証が読みげる条項を、佳代は「はい、はい、もちろん分かってます」と、まるで携帯話の利用規約を聞き流すかのような軽い態度で聞いていた。
【借主は、本契約による銭債務を履しないときは、直ちに制執にする旨を陳述した】
その恐るべき文言が読みげられ、実印が次々と押されていく。
続きを終えて役のビルのにると、佳代は元の公正証の控えを無造作にバッグへ放り込み、満面の笑みで麻紀のを握ってきた。
「本当に助かったわ、麻紀ちゃん! 来末には利息もきっちりつけてを揃えて返すからね! じゃあ、着確認したら連絡するわ!」