"母の保険金3,000万円、夫は「もう諦めろ」と言った" 第4話
「申し訳ありませんが……今すぐにはお答えできません」
麻紀は奥歯を噛み締めながら、はっきりと告げた。
「これは、母が自分の命と引き換えに私に残してくれたおです。の会社の運転資として、からへかしていいものではありません」
佳代の顔に、隠しきれない苛ちのが瞬だけった。しかし、すぐに懇願するような泣き笑いの表を作っていがってきた。
「もちろん、すぐには決められないわよね! でも本当にかだけなの! 利だって、よりをつけて利パーセント分乗せして返すから!」
「利息の問題ではありません。し、考えさせてください」
麻紀が徹に突き放すと、佳代はそれ以の追いは逆効果だと察したのか、「ごめんなさいね、急に無理を言って……よく考えてみてね」と言い残し、逃げるようにマンションをてった。
バタンと玄関ドアが閉まり、再び訪れた静寂の、麻紀はリビングのソファへ向き直った。
テーブルのには、付かずのタルトとめきった茶が残されている。
幸介は腕を組み、気まずそうに線を泳がせていた。
「……あなた、どうしてあんな話をお義姉さんにしたの?」
麻紀がく問いかけると、幸介は待っていましたとばかりに言い訳をまくして始めた。
「いや……姉貴からさ、どうしても資繰りが厳しくて会社が潰れそうだって、泣きつかれたんだよ。
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何かはないかって聞かれて……つい、麻紀の保険の話をしちゃったんだ。悪気配はなかったんだよ」
「『つい』で済む額じゃないでしょう! 千万円よ!? あれはお母さんが遺してくれた私のおなのよ! どうして夫婦の共財産みたいに勝ににペラペラ喋るの!?」
麻紀が声を荒らげると、幸介は急激に嫌な表へと変わり、舌打ちをした。
「そんなこと分かってるよ! でもさ、姉貴は本当に困ってるんだぞ! 族が目ので倒産しそうになってるのに、見殺しにしろって言うのかよ!?」
「見殺しって……もしかに返ってこなかったらどうするのよ!?」
「返ってくるに決まってんだろ! の入があるって言ってるじゃないか! お、俺の内を棒扱いする気か!?」
幸介はちがり、麻紀を見ろすようにして声を張りげた。その目には、妻へのいたわりなど微もなかった。
「麻紀、気持ちは分かるよ。でもな、ただ座に眠らせておくだけより、困ってる族を助けるために使った方が、お義母さんだって国でぶだろうが! 派な助けになるんだぞ!」
「助け……? 母が遺したおを、どうしてあなたたち族の都で『助け』に使われなきゃならないのよ!?」
「おい、麻紀! お、恩を忘れたのかよ!」
幸介はさらに歩踏み込み、麻紀を逃さないように言葉の檻を狭めてきた。
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「お義母さんが入院してた、うちの親父が何度病院までをしてくれたとってんだ!? 夜にお義母さんの容態が急変した、俺が仕事でけなくて、親父が駆けつけてくれただろ! うちの族だって、おの母親のためにできる限りのことをやってきたんだぞ! それなのに、姉貴が困ってるは『私のおだから関係ありません』で済むとってんのか!?」
麻紀の呼吸が止まった。
義父に対する謝のは、確かにあった。母の急変、親になってをしてくれた義父の優しさは、今でもく胸に刻まれている。
幸介は、その麻紀の良と負い目を、正確に質に取ってきたのだ。
「姉貴の会社が潰れたら、連帯保証になってるうちの親父や母親にまで被害が及ぶんだぞ。暮らしの寄りをに迷わせる気か? おはそんなに酷な女だったのかよ!?」
親族からのバッシング、義両親への恩義、そして世体という圧。
それらを総員して、幸介は麻紀の退を完全に塞ぎにかかっていた。
麻紀は震える唇を噛み締め、え切ったリビングのを見つめるしかなかった。
その夜、麻紀はもできなかった。
隣のベッドからは、幸介の穏やかな寝息が規則正しく聞こえてくる。妻を極限まで追い詰め、千万円というを差しさせようとしている男が、これほど無邪気に眠りこけている。