"母の保険金3,000万円、夫は「もう諦めろ」と言った" 第2話
麻紀はちがり、の自ドアをくぐった。にると、初の気配を孕んだぬるいが頬を撫でたが、背筋には奇妙な悪寒がっていた。
自宅への坂を登りながら、麻紀の脳裏には、夫・幸介(こうすけ、44歳)のここ最の様子が浮かんでは消えた。
母のの法を終えてから、幸介の言葉の端々に、微かな、だが決して見逃せない違が混ざるようになっていたのだ。
自宅マンションの玄関ドアをけると、靴箱のに置かれたディフューザーの甘いりが漂ってきた。
「ただいま」
声をかけると、リビングのソファから幸介が顔を覗かせた。
「お帰り、麻紀。遅かったじゃないか」
幸介は麻紀より歳の歳。堅の械部品商社で営業主任を務めており、普段から当たりが良く、誰とでもすぐに打ち解けるるい性格だった。母の闘病も、「俺の飯のことは気にしなくていいから、お義母さんのそばにいてやれよ」と温かい言葉をかけてくれ、疲れ果てて夜に帰宅した麻紀にいお茶を淹れてくれたこともあった。
麻紀はそんな夫の優しさにから謝していた。の夜、リビングで泣き崩れていた麻紀の肩を抱き寄せ、幸介が言ってくれた言葉がに残っている。
『よく頑張ったよ、麻紀。お義母さんも、おに最まで見守られてだったはずだ。
広告
……お義母さんが麻紀のために遺してくれたものだからさ、これからはで事にしていこうな』
そのは、ただ夫の温もりにすがり、涙を拭うことしかできなかった。
しかし、常がしずつ戻るにつれて、その「で事にしていこう」という言葉の響きに、麻紀は得体のれない引っかかりを覚えるようになっていた。
あの保険は、麻紀の固財産だ。夫婦の共財産ではない。民法も、婚姻期に相続や保険として方の親から得た財産は特財産とみなされ、夫婦であっても勝に処分できる性質のものではない。
それなのに、幸介はまるで「夫婦の資産が突然千万円増えた」かのようなぶりを、折見せるようになっていた。
「、ってきたのか?」
幸介がテレビのリモコンをにしたまま、何気ない調で尋ねてきた。その線が、麻紀が抱えているハンドバッグへ瞬だけ鋭く向けられたのを、麻紀は見逃さなかった。
「ええ。座の記帳をしてきたの」
「そうか。……無事に振り込まれてたか?」
「……ええ」
麻紀がく答えると、幸介は満そうに元を緩め、「そっか、よかったな」と呟いて再びテレビのバラエティ番組に線を戻した。
なぜ、の親の保険の着を、これほど詳細に気にするのか。
麻紀は胸のざわつきを抑えながら、キッチンへ向かった。
広告
夕の準備をするも、幸介はリビングでしきりにスマートフォンの画面を指でスクロールさせ、誰かとにメッセージをやり取りしている様子だった。普段なら帰宅はすぐにテレビに没する夫が、ここ週ほど、異様なほど頻繁に携帯を気にしている。
その胸騒ぎの正体は、数の曜の午に、あまりにも唐突な形で姿を現した。
午過ぎ。リビングで掃除をかけていた麻紀のに、ピンポーンとインターホンの甲い子音が響いた。
インターホンの受話器を取り、液晶モニターを確認した麻紀は、わず息を呑んだ。
画面に映っていたのは、派なサングラスをに乗せ、名菓子のきな袋を提げた女性――夫の姉である浦佳代(かよ、47歳)だった。
佳代は元でさなイベント企画会社を経営しており、親族の集まりでは常にになってを仕切る、押しがく派好きな性格だった。普段はに度、正の挨拶で顔をわせる程度で、事の連絡もなく突然自宅を訪ねてくることなど、過の結婚活で度もなかった。
「あなた、お義姉さんが来てるみたいなんだけど……何か聞いてる?」
麻紀がソファで寛いでいた幸介に声をかけると、幸介は驚いた様子もなく、どこか落ち着かないつきでちがった。
「あ、ああ……そういえばさっき、くまで来たから寄るってLINEがあったんだった。