"昭和51年、帰宅目前で消えた25歳女性社員" 第10話
「警察です。本誠さんですね」
佐々が警察帳を静かに提示した瞬、本の表が凍りついた。喉仏が激しくし、息が止まる。
佐々は無言のまま、コートの内ポケットからあの「机のの鞄の写真」を取りし、本の目のに突きつけた。
本は写真を見た瞬、膝から崩れ落ちるようにに両をついた。
「あ……ああ……」
から漏れたのは、言葉にならない獣のような呻き声だった。荒い呼吸とともに、粒の涙が作業の油に汚れたコンクリートへと滴り落ちていく。
「……本さん。この部は、あなたの当の自宅アパートですね。そしてこの鞄は、川島みち子さんのものだ」
佐々が静かに宣告すると、本は何度も額をに擦り付け、嗚咽を漏らしながら語り始めた。
「……ずっと、待っていました……。いつか、誰かが来るのを……毎晩、毎晩、あの方の顔がにてきて……僕は、らしい活なんて、も送れませんでした……」
9、のに葬りられていた「昭511126夜」の完全な真実の幕が、ついに切って落とされた。
あの、本は総務課の溜まった伝票処理のため、で23過ぎまで残業をしていた。会社をて、自用であるブルーバードを運転して帰についていた。
たいがり始めた夜の川崎。気のない帯の側をっていた、方の肩をトボトボと歩くの女性の姿がヘッドライトに浮かびがった。
広告
黒いコートを着て、傘も差さずに寒そうに肩をすぼめている。
見ると、同じ会社の経理課にいる川島みち子だった。
タクシーをりたものの、急な腹痛と酒の酔いで気分が悪くなり、たい気を吸いながら歩いていたところだったのだ。
本はを肩に止め、助席の窓をけて声をかけた。
「川島さん! こんなにどうしたの? もってきたよ、まで送るよ」
みち子は最初、驚いて慮した。しかし、本が「同じ会社の総務の本だよ。危ないから乗りなさい」と親切からく勧めると、彼女は「すみません、ありがとうございます……」と堵の表を浮かべて助席に乗り込んだ。
この点では、本に悪など微もなかった。ただの純粋な善だった。
しかし、運命の歯は最悪の方向へと狂いす。
夜の業帯の暗い交差点。界良の、本は曲がるべきを見落とし、臨部の埋へと続く型トラック専用の抜けに入り込んでしまった。
「あ、を違えたな。すぐUターンするよ」
本がハンドルを切ろうとしたその瞬、カーブの向こうから過積載の型ダンプカーが猛スピードで対向線にはみし、眩いハイビームを浴びせて突してきた。
「うわああっ!」
本はパニックになり、反射にハンドルをへ切り落とした。
広告
体は濡れた面を激しくスリップし、脇の太いコンクリート製柱に助席側から激突した。
凄まじい衝撃音が夜気を引き裂いた。
運転席の本はシートベルトを着用していたため、胸部打撲と軽傷で済んだ。しかし――当、助席のシートベルト着用義務は法制化されていなかった。
みち子はダッシュボードとフロントガラスに部を激しく打し、内でぐったりとかなくなっていた。
「川島さん! 川島さんッ!」
本が狂ったように肩を揺すったが、彼女からの返答はなかった。額からは鮮血が流れ落ち、首の脈はすでに途絶え、呼吸も完全に止していた。即だった。
その瞬、本の脳内を猛烈な恐怖が支配した。
事故。事故。警察。逮捕。刑務所。
自分には守るべき妻と、まれたばかりの幼い子供がいる。会社を懲戒解雇され、科者になれば、族のは完全に終わる――。
パニックに陥った本は、救急を呼ぶというの最限の義務を放棄した。
夜の臨には、目撃者となる続は台もいなかった。
本は震えるでを退させ、破損した体を引きずりながら、自が総務課の業務で把握していた川崎臨部の古い廃倉庫へと遺体を運び込んだ。
誰もち入らない資材置きの奥くにみち子の遺体を横たえ、古い事用シートと廃材を幾にも積みねて覆い隠した。