"昭和51年、帰宅目前で消えた25歳女性社員" 第8話
築数の造アパート。玄関の引き戸の鍵は、どれほど激しい嵐の夜であっても、決して掛けられることはなかった。「みち子が夜に帰ってきた、鍵が閉まっていたら入れなくて困るでしょう」。静枝はそう言い張り、毎晩、え切った玄関を見つめていた。
みち子の部も、昭5111のあの朝のまま保されていた。机ののカレンダーだけが、止まったので黄く変し、埃を被っていく。
「みち子、寒くはないかい。お腹は空いていないかい」
静枝は毎朝、みち子の好物だった卵焼きと炊きたてのご飯を仏壇でもない机のに供え、涙を流した。すら定かではないため、葬式をすことすらできない。法に宣告をす続きなど、親として絶対に受け入れることはできなかった。
昭59、田課が精を定退職した。送別会の席でも、田は力なく笑うだけで、かつての豪胆な面は完全に消えっていた。
そして、代は昭60(1985)へと向かう。
失踪から9の歳が流れ、世の記憶から「川崎のOL失踪事件」が完全に化し、警察署の庫で捜査調がい埃に埋もれかけていたその、運命の歯が突如として音をてて逆回転を始めた。
昭6010。
定退職からわずか1、元経理課の田は、自宅の居で突然胸を掻きむしって倒れた。
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急性筋梗塞だった。救急が到着したにはすでに肺止状態であり、搬送先の病院で度も識を取り戻すことなく、59歳の若さで息を引き取った。
葬儀の、精の旧同僚たちとともに、40歳となった佐藤も焼に訪れていた。祭壇に飾られた田の遺を見げながら、佐藤は胸の内で呟いた。
(課……あなたは本当に、何もらなかったんですよね……)
答えのない問いが、線の煙とともに虚空へ消えていく。
田のの法が無事にけた12の初、田では遺品理がわれていた。
残された妻と、娘の田恵子(18歳)。恵子はこののにを卒業したばかりで、急激にさくなってしまったがので、の父の気配を辿るように斎の片付けをめていた。
斎には、几帳面だった父が遺した類ケース、古い帳、勤続表彰の記品などが然と並んでいた。本棚の最段、観音きの扉をけた恵子は、その奥くに押し込まれていた冊のな革張りアルバムを見つけた。
「お母さん、これ……お父さんの昔の写真かな」
恵子が引っ張りすと、バサリと古い埃がった。い、度もかれた形跡のないアルバムだった。
居のコタツにアルバムを運び、母とでページをめくり始めた。若い頃の活な父の姿、社員旅での宴会景、幼い恵子を肩して破顔する父の笑顔。
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「お父さん、若い頃は本当に恰幅が良くて、元気だったのねえ」
母が懐かしそうに目を細める。
しかし、アルバムの盤を過ぎたあたりで、恵子の指がぴたりと止まった。
そこには、昭51ときされた居酒の集写真が貼られていた。勢の男性社員がビールジョッキを掲げて笑っている。その宴席の最列の隅に、所なさげにさく写り込んでいる若い女性がいた。黒いコートを膝に置き、どこか疲れたような、しげな差しでレンズを見つめている。
写真の台には、父の几帳面な跡でメモが添えられていた。
『昭511126 属契約祝勝会(川崎駅・割烹吉野)』
「……昭5111?」
恵子は首を傾げた。どこかで聞いたことのある付だった。
「お母さん、このって……」
写真を覗き込んだ母の顔から、瞬で血の気が引いた。
「これ……あのだわ。川島さん……あの事件のだわ」
母の脳裏に、9の記憶が鮮烈に蘇っていた。連連夜、自宅に刑事が押し寄せ、夫が夜まで取調べを受け、のが針の筵のようになったあの悪の。
「このが、いなくなった川島みち子さんなの……?」
恵子は息を呑み、写真の女性をまじまじと見つめた。
そして、何かに引き寄せられるように、次のページをめくった。
その瞬、は同に声を失った。
次のページに貼られていた写真は、宴会の記写真などでは全くなかった。