"昭和51年、帰宅目前で消えた25歳女性社員" 第7話
「佐藤君、君はみち子さんがタクシーに乗った、5分ほど待ってから別のタクシーを拾ったと言ったね」
佐々刑事に問われた佐藤は、うつむいたまま震える指先を組んでいた。
「……はい」
「なぜすぐ乗らなかった? 同じ乗りにタクシーは列を作っていたはずだ」
「断られた直でしたから……同じタイミングですぐろのタクシーに乗ったら、まるでストーカーのように彼女を追跡しているようにわれるんじゃないかと……気まずかったんです。だから煙を本吸って、わざとを空けました」
佐藤を乗せたタクシーが彼のアパートに到着したのは、2350分頃。
みち子が自宅でタクシーをりたのが2345分頃。
もし佐藤が、タクシーをりたですぐにみち子の歩くへ先回りしていれば、彼女を待ち伏せすることはに分に能だった。
「佐藤君。君はみち子さんに個な好を抱いていたね?」
「……好は、持っていました。真面目で、誰に対しても分け隔てのない彼女を、尊敬していましたし、好きでした。でも! だからといって彼女を傷つけるようなことなんて、神に誓ってしていません! 僕はまっすぐ自に入って寝たんです!」
「暮らしの君のアリバイを証できる第者はいないな」
「いません……。でも、信じてください……!」
佐藤の部、そして彼が通勤に使っていた古い産・サニーの内も徹底に鑑識のが入った。
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だが、皿の吸い殻と乱雑に積まれた帳簿類以、事件に関連する痕跡は何つ発見されなかった。
決定な物証がない。
あるのは、夜のが孕む確かな状況証拠と、悔に歪む男たちの曖昧な証言だけだった。
捜査は、始からわずか数週でい暗礁へと乗りげていった。
昭51のが過ぎ、52のが訪れても、川島みち子の方は杳としてれなかった。
捜査本部は規模の縮を余儀なくされた。川崎臨部ではたな贈収賄事件や暴力団の抗争事件が勃発し、限られた捜査員たちは次々と別の事件へと駆りされていった。専従でみち子の方を追い続けるのは、佐々警部補と若刑事の2名だけとなっていた。
みち子が消えた50メートルの周辺の側溝、隣の運、京湾沿いの埋、果ては放置されたままの廃や資材置きまで、警察犬を導入した規模な狩り同然の捜索が幾度となくわれた。しかし、彼女がにつけていたはずのの端布つ、靴の片方すら見つからない。
まるで、最初からこの世界に川島みち子などというがしていなかったかのような、気な空。
精の経理課フロアには、奇妙な静けさが定着していた。
みち子が座っていた窓際の席は、撤されることもなく、のまま類が片付けられた状態で残されていた。
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誰もその席に座ろうとせず、話のベルが鳴るたびに、社員たちは腫れ物に触るような線をその空のデスクへと向けた。
田課は、あのを境に別のように数が減った。あれほど好きだった部とのみ会を切かなくなり、定を過ぎると誰とも目をわせずに逃げるように退社するようになった。
「もしあの夜、祝いの酒席などに連れさなければ」
その自責のが、田の背を々さく丸めさせていった。
佐藤もまた、いの傷を抱えていた。昭57、34歳になった佐藤は親の勧めで見い結婚をしたが、婚旅の最であっても、ふとした瞬にみち子の控えめな笑顔が脳裏をよぎり、胸を締め付けられた。
「あの、もっとく彼女のを引いて、同じタクシーに押し込んでいれば」
その仮定の苦しみは、消えない焼き印のように男たちのに癒着していた。
そして、何よりも残酷なをきていたのは、残された両親だった。
昭58。みち子の失踪から7が経過した、父の清治が過労と労の果てに脳梗塞で倒れた。命は取り留めたものの、半にい麻痺が残り、言語能も著しくして子の活となった。
母の静枝は、老いた体に鞭打って夫の介護を続けながら、それでもなお、みち子の帰りを信じて待ち続けた。