"昭和51年、帰宅目前で消えた25歳女性社員" 第3話
先輩女性社員たちも諦めたような苦笑いを浮かべ、誰も反対の声をげられない。みち子もまた、コートの裾をえながら、い取りで夜の気のへと引きずりされていった。
次会の会となったのは、川崎駅の側、細いを入った雑居ビルのにあるスナック「カトレア」だった。
い防音扉をけると、暗い内は赤いベルベットのソファとの接照に照らされ、っぽいの匂いとブランデーのりが充満していた。カラオケの械から演の伴奏が音量で流れし、田課は着を脱ぎ捨ててネクタイを緩めると、真っ先にマイクを握りしめた。
昭の流を喉を震わせて唱する田の姿に、部たちは拍子を打ち、歓声をげる。グラスに氷がぶつかるカランという乾いた音が、騒音のに響く。
みち子はボックス席の最も端、たい壁に背を預けるようにして座っていた。にはほとんどをつけていないウーロン茶のグラスを握り、ぼんやりと井のミラーボールの反射を見つめていた。バッグからこっそりと取りした腕計の針は、すでに23を指そうとしていた。
終のが刻刻と迫っている。
実のある宅までは、ここからと徒歩を乗り継いで40分ほどかかる。
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川崎の業帯に隣接するその域は、夜になると極端に通りが減り、灯もまばらになる。母の「夜は危ないから」という言葉が、鈍い警鐘のように脳裏で鳴り響いていた。
2320分、ようやく数曲い終えて満した田が、息を切らしながらマイクを置いた。
「よし……! は曜だが、みんな今夜は本当によく付きってくれた! 今夜はこの辺りで打ち止めとしよう!」
その言葉がた瞬、みち子だけでなく、同席していた全員の肩から目に見えて緊張が解けた。
会計を済ませ、の階段をがってへると、11終わりの凍てつく夜が瞬で酔いを吹きばすように吹き抜けていった。を包むたい空気の清涼に、みち子はさく呼吸をした。
は駅のロータリーにあるタクシー乗りへと歩いた。夜運のタクシーがヘッドライトを連ね、客待ちのい列を作っている。
「みんな、気をつけて帰れよ!」
田課がを挙げ、部たちに声をかける。社員たちは「お疲れ様でした!」「ごちそうさまでした!」と々にをげ、散り散りに分かれていった。
みち子も「お疲れ様でした」とさく会釈し、タクシーの列へ並ぼうとした。その、すぐろから呼び止められた。
「川島さん」
振り返ると、佐藤がコートのポケットに両を突っ込んでっていた。
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酒のせいかし赤ら顔だったが、その瞳は真剣にみち子を見つめていた。
「もしよかったら、方向も途まで同じだし、タクシー相乗りしていきませんか? もう夜ですし、女性の乗りは配ですから」
佐藤の親切からの申しだった。普段の仕事であれば、その好を素直に受け取っていたかもしれない。だが、のみ会と司への気遣いで神経をすり減らしていたみち子は、極度の疲労のあまり、今は誰とも言葉を交わさず、たったで静寂に浸りたいといういに支配されていた。
それに、社内で妙な噂をてられることも恐ろしかった。昭の代、未婚の男女社員が夜に同じタクシーで帰宅したなどとれ渡れば、曜の社内でどんな邪推をされるか分からない。
「……ありがとうございます、佐藤さん。でも、丈夫です。すぐそこから乗れますし、で静かに帰りたいので。お気遣い、本当に嬉しいです」
みち子は控えめに、しかしはっきりとした拒絶の笑みを浮かべてをげた。
「……そうですか。無理を言ってすみません。気をつけて帰ってくださいね」
佐藤はし寂しげに眉をげたが、それ以引き留めることはしなかった。
乗りに空の個タクシーが滑り込んできた。みち子はペコりと佐藤に再度をげ、いた自ドアから部座席へと乗り込んだ。
「どちらまできますか?」
髪交じりの初老の運転がバックミラー越しに尋ねてくる。