"「2度と戻るな」姑と500万円の偽造委任状" 第23話
1番奥の席に、弘はすでに座っていた。
グレーのスーツ姿だが、1週のようなひどい疲れは見えない。
髭は綺麗に剃られ、背筋も伸びていた。
どこか憑き物が落ちたような、すっきりとした顔つきをしていた。
私が向かいの席に座ると、弘はさくをげた。
「仕事帰りに疲れているところを、ごめん」
私は微笑んで答えた。
「ううん。丈夫よ」
ウェイトレスがとお絞りを運んできた。
私はホットコーヒーを、弘はブラックのコーヒーを注文した。
ウェイトレスがちった、私はバッグのからあの茶い封筒を取りした。
「これ、お義父さんからの」
私が封筒をテーブルに置くと、弘はその封筒をじっと見つめた。
私は静かに言った。
「お義父さんは、全部わかっていたわ」
私はにかれていた内容を、静かにゆっくりと弘に話し始めた。
義母の性格のこと。義父が盾になろうとしていたこと。
そして私に、実を切にしなさい、逃げていいといてくれていたこと。
弘は黙って私の話を聞いていた。
途でを挟むことも、言い訳をすることもしなかった。
ただ自分の父親が妻の苦しみを見抜き、守ろうとしてくれていた事実に、くうなだれていた。
私は最に言った。
「お義父さんから、あなたへの伝言があるの」
弘がゆっくりと顔をげた。
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私は義父の言葉を伝えた。
「波を恐れて逃げるのは優しさではない。ただの卑怯だ。本当に切なものを守りたいなら、お自が傷つく覚悟を持て」
その言葉をにした瞬、弘の目から粒の涙がこぼれ落ちた。
弘は声を殺し、両で顔を覆って泣いた。
8、自分が父親から引き継ぐべきだった本当の覚悟。
それをずっと放棄し、1番切な妻を傷つけ続けてきた自分の愚かさに、ようやくの底から気づいたのだ。
私は黙って、弘が泣き止むのを待った。
内に流れるジャズの音が、弘のさなすすり泣きを優しく包み込んでいた。
数分、弘は備え付けので目を拭い、く息を吐いた。
弘の声は震えていた。
「親父の言う通りだ。俺はただの卑怯者だった」
弘はテーブルのにをつき、くをげた。
「弓、本当に、本当にすまなかった」
それは義母を庇うための謝罪でもなく、そのしのぎの謝罪でもなかった。
1のとしての、からの贖罪だった。
私はコーヒーのカップを両で包み込みながら、弘を見つめた。
私は静かに言った。
「弘さん、謝ってくれたことはちゃんと受け取ります。でも」
私は自分ので決めていた言葉をにしようとした。
でも、私たちはもう別々のを歩んでいきましょう、と。
しかし私がその言葉を言い終わるに、弘が顔をげた。
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その瞳には、今までに見たこともないような静かでいが宿っていた。
弘は言った。
「弓、俺からの話も聞いてくれないか?」
弘は背筋を伸ばし、私を真っ直ぐに見つめた。
「俺はおをあの井に戻すために、をたわけじゃない。母さんを謝らせておを呼び戻す気もない」
弘のからた言葉は、私の予を完全に裏切るものだった。
私はコーヒーカップを持ったまま、しだけ息をんだ。
弘の声は議なほど穏やかだった。
「俺は昨、1でアパートの部にいて初めて気づいたんだ」
そして彼は自分のポケットから、1枚のいを取りした。
それは役所に提するための、緑の枠で囲まれた用。
婚届だった。
弘は言った。
「おにこれをしてくれと言っているんじゃない」
弘はその用を私のに突きすことはしなかった。
自分の元に置いたまま、私を見つめた。
「俺は8に決められなかったことを、今からやる」
この、誰もらなかった。
弘のこの決断が、私たちの関係を元に戻すのではなく、全くしい形へと変えていく第歩になること。
私は弘の次の言葉を、ただ静かに待っていた。
喫茶の席で、私は緑の用を見つめていた。
それは婚届だった。
しかしその用に記入されている文字は、まだ半分も埋まっていなかった。
弘はそれを私のに突きすわけでもなく、そっと自分の元に置いたまま言った。