"「2度と戻るな」姑と500万円の偽造委任状" 第9話
3階の般病棟。
ナースステーションのを通り過ぎ、私は305号のにった。
個ではなく、4部の窓際のベッドだ。
カーテンは半分だけいていて、通からの様子が見えた。
私は音を忍ばせ、しだけ顔を覗かせた。
ベッドのにいる義母は、酸素マスクもつけていなければ、点滴もしていない。
それどころか背もたれを起こして、コンビニの袋に入った菓子パンを美しそうにべていた。
そして元にはスマートフォンを当てて、誰かと楽しそうに話している。
相は声のトーンからして、義母の妹、つまり私の義理の叔母の子だった。
義母の弾んだ声が、静かな病に響いた。
「ええ、そうよ。ちょっと腰が抜けたふりをしたらかずひろの奴、すっかり青ざめちゃってね」
その声には病の々しさなど、微もない。
義母はクスクスと笑いながら続けた。
「あの嫁が実に帰ったままだから、私がショックで倒れたってことにしておいたのよ。これで弘もあの子を無理やり連れ戻すでしょうね」
私は通の壁に背を預け、たい空気をゆっくりと吸い込んだ。
りはない。
ただあまりにも予通りの展に、呆れ果てていたのだ。
私の8は、こんな浅ましい嘘をつくのために費やされてきたのか。
そううと、しだけ自分がになった。
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私はバッグのから、自分のスマートフォンを取りした。
画面を操作し、ボイスレコーダーのアプリをちげる。
そして、赤い録音ボタンを静かに押した。
画面の数字が00分01秒、02秒とを刻み始める。
私はスマートフォンを胸のさに持ち、ベッドから聞こえてくる義母の弾んだ声を1つ残らず録音し始めた。
義母は得げに話している。
「それに定期預のこともうまく誤魔化せたわ。倒れたにおのことなんて問い詰められないもの。あの子が戻ってきたら、今度こそ通帳と印鑑の所を吐かせてやるわ」
弘は私のことを、な女と言った。
ならば、その弘の目を覚まさせるためには、これくらい酷な証拠が必なのだ。
私の静かな反撃が、ここから確かな形を持ってき始めた。
スマートフォンに表示された録音は、3分を超えていた。
病のから聞こえてくる義母の弾んだ声は、途切れることがない。
私は静かに録音の止ボタンを押し、ファイルを保した。
ファイル名は「義母の仮病」とした。
それをクラウドの自分だけのフォルダーに、しっかりとバックアップする。
のひらのにあるさな械が、今は何よりもい武器にじられた。
病のドアノブにをかけることはしなかった。
ここで義母のに姿を表し、嘘を暴いて鳴り散らすのは簡単だ。
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しかしそれでは、ただのヒステリーを起こした嫁として、再び私が悪者にされるだけだ。
私はく息を吸い込み、病に背を向けた。
向かった先は、同じ階にあるナースステーションだ。
カウンター越しに夜勤の護師が私に気づいて、声をかけてきた。
「どうされましたか?」
私が切りした。
「305号の井の嫁ですが、しよろしいでしょうか?」
護師はカルテの画面をいた。
「はい。井節子さんのご族ですね。どうされましたか?」
私は声を潜め、しかしはっきりとした調で伝えた。
「義母の緊急連絡先とキーパーソンの登録から、私の名を完全にしてください」
護師のが、キーボードのでピタリと止まった。
し戸惑ったような線が、私に向けられる。
無理もない。
入院患者の嫁が、自ら連絡先を消してくれと申したのだから。
私は淡々と続けた。
「今は全て男である夫の弘へ、直接連絡をお願いします。着替えの準備も、退院の続きも、費用の支払いも、私は切関与いたしません」
護師は配そうに尋ねた。
「それは、ご夫婦で話しわれた結果ということでしょうか」
私は静かに首を横に振った。
「いいえ。私は現、夫と別居の準備をめています。もうあのに戻ることはありませんから」
私の凛とした態度に、護師は何かを察したようにさく頷いた。
「分かりました。そのように変更しておきますね」
私はをげた。