"父の逝った夜の車" 第22話
そんなこと、私はとっくに忘れていた。 けれど、伯父は覚えていたのだ。
「嬉しかった……。ぬほど嬉しかったんだよ。俺みたいなの顔を見て、おたちが笑ってくれる。俺のことを『おじさん』って呼んで頼ってくれる。……千鶴ちゃん、俺はな、贖罪のためにきてたんじゃない」
伯父の目から、溢れるほどの涙が流れ落ちた。
「おたちが……おたちが、俺のきる理由だったんだよ。正彦兄さんの代わりに、おたちがになるのを見届けることだけが、俺がこの世に息をしていていい、たったつの免罪符だったんだ。おたちに『おじさん』って呼ばれるたびに、俺は今、きていていいんだってえた。俺がおたちを救ったんじゃない。……俺がおたちに、かしてもらっていたんだよ」
病の扉が、音をてていた。
っていたのは、兄と姉だった。 健は顔を両で覆い、肩を激しく震わせてに膝をついた。歳の男が、声をげて号泣していた。 美咲も涙を止められず、よろめくようにしてベッドに駆け寄ると、伯父の細いをシーツ越しに抱きしめた。
「おじさん……おじさん、ごめんなさい……!」
美咲の泣き叫ぶ声が、病に響き渡った。
「らなかった……何もらなかったの! お父さんのことも、おじさんのことも……私たち、おじさんに甘えて、おをしてもらって当たりだとって……おじさんがどんないで私たちを見てたかもらないで……!」
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健もうようにしてベッドの横にみた。 兄は伯父のもう片方のを両で包み込み、自分の額をそのの甲に押し当てた。 黒い油染みの残る、伯父のに、兄のい涙がボロボロとり注いだ。
「親父の……親父の代わりなんて、言わないでくれよ……」
兄の声は、嗚咽に押し潰されそうだった。
「おじさんは……俺たちの、たったの……切なおじさんだよ! 俺をにしてくれたのは、おじさんじゃないか! ぬなんて言うなよ……頼むから、もっときしてくれよ、おじさん……!」
伯父は、酸素マスクので、まれて初めて見るような、穏やかで、満ちりた笑顔を浮かべた。 皺だらけの顔をくしゃくしゃにして、健のに、美咲の肩に、震えるを伸ばした。
「……健、派になったな。美咲ちゃん、いい母親になったな……正彦兄さんに、胸を張って報告できるよ……」
私は、その輪のから歩がり、の姿を見つめていた。
、がのにち込めていた暗いが、音をててれていくようだった。 父が命を賭して守り、母が沈黙ので抱え込み、そして伯父が自らのを燃料にして燃やし続けた、器用で、痛ましいほどの族の。
私は伯父の元にづき、そっとシーツをえた。 もう、あのミントタバコと械油の匂いは、怖くなかった。 それは、私たちが今まできてこられた、確かな命の匂いだった。
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*
半が過ぎた。
季節は巡り、町に再び初のが吹き抜ける頃になっていた。
伯父の体調は、奇跡に持ち直した。 もちろん、以のようにい鉄骨を担いだり、夜を徹して旋盤を回したりすることはもうできない。 退院と同に、川敷の『澤渡属加』は正式に廃業した。 残っていたわずかな作械を売り払い、のを町に返却して、の負債をすべて清算した。伯父の元には、ほとんど何も残らなかった。
けれど、伯父の顔からは、あののような暗い苦痛が完全に消えっていた。
町れにある、かつて私たちが育った古い借。 解体を免れていたそのを、兄の健が買い取り、リフォーム会社に勤める友のを借りて、回りと畳を綺麗に直した。 今から、伯父がそので暮らすことになっていた。 兄と姉のからもく、いつでも孫の顔を見せに来られる距だった。
午を回り、が古い造のを茜に染めていた。
畳のに置かれた、父の代から使っているい製の座卓には、湯気をてる煮物や、焼き魚、それに所のスーパーで買ってきたちらし寿司が所狭しと並べられていた。 台所からは、美咲が噌汁をよそうお玉の音がコトコトとよく響き、庭からは兄と美咲の息子が虫捕り網を持ってはしゃぐ声が聞こえていた。