"父の逝った夜の車" 第20話
そして、運命の。あの型台の夜がやってきた。
「あの晩、俺の会社は本当に潰れかけていた。形が落ちず、翌朝の納品がにわなければ破産だった。俺は居酒で酔して、正彦兄さんに泣きついた。……兄さんは、俺を助けに来たんじゃない。俺が追い詰められているのをって、会を待っていたんだ」
伯父の指が、私の掌ので微かに震えた。
「俺が『ブレーキが壊れてる、あのはで止まらない』って叫んだ……正彦兄さんの顔を、俺は忘れられない。兄さんは、ふっと笑ったんだ。『孝司、それならちょうどいい。ブレーキが壊れてるなら、警察も台の事故として処理してくれる。俺が病気で自殺したんじゃない、備良ので業務に起きた慮の事故だってことにしてくれる』って……」
私の背筋に、氷のような戦慄がった。
「……事故に、見せかけるためだったの……?」
「運送会社のトラックで自損事故を起こせば、会社の責任問題になるし、何より自殺を疑われたら保険がりない。だが、親族の会社の備良ので、台の夜にやむを得ず荷物を運んで事故に遭ったなら……それは『業務の過失による幸な事故』になる。任保険も、搭乗者傷害保険も、満額がる。兄さんは……運送会社でハンドルを握ってきたプロだったから、保険の仕組みを熟していたんだ」
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ので、バラバラだったピースが恐ろしい精度で噛みっていく。
「俺は必で止めた! のにちはだかった! 『兄さん、なないでくれ、俺が破産すりゃ済む話だ!』って叫んだ! でも兄さんは、俺を力任せに突きばした。『おが破産したら、節子や子どもたちのろ盾がいなくなるだろうが!』って……『俺の命の保険で、おの会社をて直せ。その代わり、あいつらを……健と美咲と千鶴を、おがかけて育てろ!』って……!」
伯父の呼吸が乱れ、酸素マスクの内側がく曇った。
「兄さんはにび乗り、鍵を回した。猛スピードでの夜へびしていった。俺は泣き叫びながら、もう台の緑のワンボックスで追いかけた。でも……追いつけなかった。峠の入りに着いたには、ガードレールがぐにゃりと曲がって、沢の底でががっていた……」
あの夜の景。 父は、自らので、壊れたを駆って暗へとび込んでいったのだ。 迫り来る病魔に族の未来を奪われるに、自分の命を投げ打って、保険と、義弟への「遺言」を残すために。
「……じゃあ、お母さんは……」
私が問うと、伯父は固く目をつぶった。
「警察から病院に連絡がいった、俺は半狂乱で義姉さんを現に連れてった。義姉さんは、が落ちた沢を見つめて、言も泣かなかった。ただ……震えていた。
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兄さんが、数から居のチェストの奥に、自分の診断と遺言めいたメモを隠していたのを、義姉さんはっていたんだ」
だから。 だから母は、夜にまみれで実へ戻ったのだ。
「義姉さんは言った。『あのや診断を警察に見られたら、正彦さんが自殺したって疑われる。保険がなくなる。正彦さんのが、無駄になってしまう』って……だから、のをってに戻り、チェストのを全部回収したんだ。まみれになって、靴も履かずに……」
歳の私が見た、母のあの異様な姿。 通帳や保険証券を鷲掴みにし、「何も見てないわね」と私を鳴りつけた母の狂気。 あれは、夫の命と引き換えにに入れた「族の未来」を守るための、血を吐くような隠蔽作だったのだ。
「警察には、病気のことは切伏せられた。松田も……俺が座して頼み込んだ。『ブレーキの備は事故の衝撃で壊れたことにしてくれ、過失割を全部の方に持っていってくれ』ってな。保険会社からは、数千万円の保険がりた。兄さんの惑通り……会社の負債は帳消しになり、義姉さんと子どもたちの活費も確保された」
伯父は目をけ、私の顔をじっと見つめた。その瞳には、の獄が宿っていた。
「でもな、千鶴ちゃん。義姉さんは……俺を許せなかった。当たりだ。
俺がけない借を作らなければ、俺が酒に逃げなければ、正彦兄さんにあんな恐ろしい選択をさせずに済んだんだからな。