"父の逝った夜の車" 第14話
残酷な言葉だと分かっていた。 けれど、そう言わずにはいられなかった。 私ののが、父を奪われた補償のように扱われていたのだという事実に、が引き裂かれそうだったのだ。
伯父はゆっくりとをろした。 その瞳から涙がこぼれ落ち、無精髭のえた頬を濡らしていた。 けれど、伯父は言い訳をにしなかった。
「……ああ」
伯父は、ただ言、そう絞りした。
「千鶴ちゃんの言う通りだ。俺は、汚いだよ。正彦兄さんの命を奪っておきながら、のうのうとき延びて……で許してもらおうとしていただけの、けない男だ。おが俺を憎むのは当たりだ。怖がるのも、当然だ」
「……」
「すまなかった。本当に……すまなかった」
伯父はパイプ子からちがり、油と埃まみれのコンクリートのに、両膝をついた。 そして、私の靴のに額を擦り付けるようにして、々と座をした。
その背はさく丸まり、震えていた。 、父を失った私たち族のに現れた「きな伯父さん」の姿は、そこにはもうどこにもなかった。 ただの、老いて壊れかけた、れなの男がいるだけだった。
復讐のような爽など、微も湧かなかった。 ただ、たいが胸の奥を吹き抜けていくような、耐え難い空虚さだけが残った。
「……もう、いいです」
私は机のの聞記事と松田モータースの記録をひったくるようにバッグに詰め、母のだけを机のに残した。
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「もう、度と会いません。兄たちにも、真実は言いません。おじさんの望み通り……私たちは、何もらなかった子どもたちのままでいてあげます」
背を向け、事務所のドアノブにをかけた。 背から、に額を擦り付けたままの伯父の、しゃくりあげるような泣き声が聞こえていた。
鉄の引き戸をけてにると、夕暮れの赤いが川敷を染めていた。 がたくなっていた。
砂利をとぼとぼと歩きした、背から原付自転のエンジン音がづいてきた。 スーパーカブに乗った、褪せたベージュのスーツ姿の老が、私の横でブレーキをかけた。
「おい、あんた……千鶴ちゃんじゃないかい?」
髪の混じった丸顔に、縁の鏡。 見覚えがあった。子どもの頃、伯父のでよく領収の束をめくっていた、税理士事務所の坂本さんだった。もう歳いのではないだろうか。
「……坂本さん?」
「やっぱりそうだ! いやあ、きくなったなあ。面があるからすぐに分かったよ。どうしたんだい、こんなところで。孝司さんのところへ寄ったのか?」
坂本さんはバイクを止め、親しげに目を細めた。 けれど、私の引き攣った表と、赤く腫れた目を見て、審そうに首を傾げた。
「……何かあったのかい? 孝司さんと喧嘩でもしたか」
「喧嘩なんて、していません」
私は俯き、震える声で言った。
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「ただ……全部、っただけです。のことも、おじさんがどうして私たちに親切にしてくれていたのかも。全部、罪滅ぼしだったんですよね。父をなせた罪悪をめるために、私たちにおを恵んでいただけだったんです」
坂本さんの表から、懐っこい笑みが消えた。 鏡の奥の目が、すっと細められた。
「……千鶴ちゃん。あんた、孝司さんにそんなことを言ったのかい」
「本当のことじゃないですか!」
私はわず声を荒らげた。
「おじさんは認めました! 自分が悪かったって、座までして……! 私たちは、父を殺したのおでかされてきたんです。そんなの、あんまりです!」
坂本さんはい息を吐き、カブのセンタースタンドをてた。 それから、スーツのポケットからハンカチをし、鏡をしてレンズを拭いた。 そのつきは驚くほど静かで、どこか徹ですらあった。
「千鶴ちゃん。あんたは、帳簿ってものを見たことがあるかい」
「……え?」
「数字ってのはな、嘘をつかないんだよ。の言葉はいくらでも嘘をつけるが、入りの記録だけは誤魔化せない。俺はな、、あのの帳簿をつけてきたんだ」
坂本さんは鏡をかけ直し、私を真っ直ぐに見据えた。
「あの事故の、運送会社の保険がて、残されたあんたたちの活費はある程度保障された。
だが、孝司さんの会社はどうなったとう? 取引先からは『事故を起こした吉な会社』と敬され、借だけが残った。