"父の逝った夜の車" 第7話
錆びたトタン根と、軒先に積まれた廃タイヤの。 『松田モータース』の板は、と変わらない所に掲げられていた。ただし、文字のペンキはほとんど剥げ落ち、の奥で台の軽自がリフトアップされているだけだった。
「すみません」
油の匂いが染み付いた作業に声をかけると、奥の事務所の引き戸がき、髪交じりの痩せた男性が顔をした。 背がし曲がり、油で汚れた青いツナギを着ている。歳を超えているはずだが、目元には職気質の鋭さが残っていた。
「はいよ。検かい? うちは今、予約がいっぱいで……」
「あの……松田さんでしょうか」
「そうだが。あんた、誰だね」
「沢渡……正彦の、娘です。末っ子の、千鶴です」
松田さんは眉をひそめ、老鏡の奥の目を細めた。 それから、私の顔をまじまじと見つめ、息を呑んだ。
「……正彦さんの? 千鶴ちゃん……? あの、番のか?」
「はい。に、父がお世話になりました」
松田さんはにしたウェスをさく丸め、の奥を振り返った。 誰もいないことを確認してから、くため息をつき、顎で事務所を指した。
「……に入りな。お茶くらいしかせんが」
畳ほどの事務所には、古い伝票の束と、茶渋のついた湯呑み、そして競馬聞が散らばっていた。 パイプ子を勧められ、私は浅く腰掛けた。 松田さんはたい麦茶をコップに注ぎ、私のに置いた。
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「驚いたよ。もう派なになったんだな。健くんはたまに見かけるが、あんたは京の方へたんじゃなかったかい」
「県内の、別ので働いています。今は……どうしても、お聞きしたいことがあって来ました」
私は鞄から、さっき図館でコピーしてきた聞記事の片を取りし、テーブルのに置いた。
松田さんは片に線を落とした。 その瞬、彼の眉の皺が、目に見えてくなった。
「……これを、どこで」
「図館です。松田さん、覚えていますよね。父がくなったあの夜のこと。あの軽トラックは、こちらで預かられたんですよね」
松田さんは麦茶をもまず、組んだの指先をじっと見つめていた。 沈黙が落ちた。のを型トラックが通り過ぎるたび、事務所のプレハブがかすかに震える。
「……千鶴ちゃん。昔のことを蒸し返して、どうするんだい」
松田さんの声はく、どこか懇願するようなが混ざっていた。
「孝司さんはな、いいだよ。あんたたちを育てるために、をにして働いてきた。自分の会社が傾きかけてたも、健くんや美咲ちゃんの学費を面するために、をげて回ってた。あのを悪く言うは、この町にはもいない。それを、今さらあんたが暴きてて……何になるんだ」
「悪く言いたいわけじゃありません」
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私は声を絞りした。テーブルので、膝ののスカートをく握りしめる。
「ただ、りたいんです。私はずっと、おじさんのことが怖かった。どうして怖いのか、自分でも分からなかった。でも……あの夜、母が夜に戻ってきたことや、におじさんのがまっていたことを、最になっていしたんです。父は本当に、ただの注で崖から落ちたんですか?」
松田さんの肩が、ぴくりとねた。 彼はゆっくりと顔をげ、私を真正面から見た。その目には、隠しきれない苦渋が滲んでいた。
「……警察には、言わなかったよ」
松田さんは、掠れた声で言った。
「言えるわけがなかった。あれは……言えば、孝司さんが業務過失致で刑務所きになるところだったんだからな」
臓が、たい氷で撫でられたように縮みがった。
「どういう……ことですか」
「あの軽トラはな、事故のに、うちでオイル交換をしたんだ。その、俺は孝司さんにを押したんだよ。『フロントのブレーキパッドが限界まで削れてる。ローターまで傷がいってるから、今すぐ交換しなきゃ危ない。り坂でベーパーロックを起こしたら、発でブレーキが抜けちまうぞ』ってな」
松田さんはちがり、棚の奥から埃をかぶった古い備記録のノートを引っ張りしてきた。 ページをめくり、ある箇所を指で叩く。
そこには、赤ペンで『ブレーキ交換・部品発注保留』と殴りきされていた。
「孝司さんはその、顔を真っ青にして言ったんだよ。