"父の逝った夜の車" 第5話
「ねえ、健兄ちゃん」
「ん?」
「お父さんがくなったのこと……覚えてる?」
兄は怪訝そうにを緩め、私を見た。
「の? 急になんだよ」
「ほら、、すごいだから。あのも台だったなって、ふといして……」
兄はし線を泳がせ、それからさく息を吐いた。
「覚えてるも何も、俺はその、征先の旅館で止めらっててさ。翌朝、警察から話がかかってきてが真っになったよ。急いで帰ってきたには、もうお父さんは遺体置所にいて……顔も見せてもらえなかった」
「……あの、お父さんが乗ってたのって、軽トラックだったよね」
「ああ。運送会社のトラックじゃなくて、普通の軽トラな」
居酒の帳の横を通り過ぎる。奥の個からは、美咲の子供の無邪気な笑い声が聞こえていた。
「あの軽トラって、うちのだったの?」
私がそう問いかけると、兄は当たりのように首を横に振った。
「違うよ。うちには当、なんて買う余裕なかっただろ。あれは、おじさんの会社のだよ」
臓が、トクンと嫌なね方をした。
「……おじさんの?」
「そうだよ。おじさんのの配達用の。ほら、おじさんの会社、昔は械の部品をあちこちに運んでただろ? あのをお父さんが臨で借りて、乗ってたんだよ」
「なんで……お父さんが、おじさんのを?」
「さあな。そこまでは俺もらないよ」
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兄は軽く肩をすくめ、個の簾にをかけた。
「警察の話じゃ、ちょっと用事でかけるのに借りたんだろうってことになってたけど。おじさんもさ、自分のを貸したせいで兄貴がんだって、ずっと自分を責めてたんだよ。備はちゃんとしてたはずなのに、のでブレーキが利かなくなったんじゃないかって……だからこそ、俺たちのことをあそこまで面倒見てくれたんだろ」
ブレーキが利かなくなった。 おじさんが自分を責めていた。
兄は何の疑いも持たず、ただ「優しい伯父の劇な巡りわせ」として、その話を信じ切っていた。 その瞳には、これっぽっちの曇りもない。
簾をくぐると、座敷の奥で伯父が、美咲の子供のために割り箸で器用に鳥の形を作って見せていた。 子供がキャッキャと笑い、美咲が「おじさん、ー!」とを叩いている。
伯父の横顔は、皺だらけで、どこまでもの良さそうな、田舎の初老の男性そのものだった。
けれど、兄の言葉を聞いた私ののには、決定な矛盾が突き刺さっていた。
もし、父がおじさんのを借りて単独で事故を起こしたのだとしたら。 父がそのごと底へ転落したのだとしたら。
あの夜。 母を乗せて実の庭先に現れた、もう台の『澤渡属加』のは何だったのか。
そして。
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なぜ父が事故したその刻に、伯父は母と緒にいて、ライトを消してのに隠れていたのか。
「お、千鶴ちゃん、戻ったかい。顔、しは良くなったか?」
伯父が私に気づき、懐っこい笑顔を向けた。 その元には、さっき私が倒したグラスの代わりに、しく注文してくれた温かいお茶の湯呑みが置かれていた。
「……はい。ご配おかけしました」
私はをげ、勧められた席に座った。 製の子は、さっき伯父が引いてくれた位置のまま、そこにあった。
湯呑みからちる湯気の向こうで、伯父が満そうに目を細めている。 その笑顔を見つめながら、私はテーブルので、自分のスカートの裾を破れそうなほどく握りしめていた。
このは、何を隠している?
母がぬまでを割らなかった秘密。 兄も姉もらない、のの夜の来事。
私は伯父の目を見つめ返した。 もう、目を逸らすだけの歳の子供ではいられなかった。
アパートの畳に戻っても、夜はけてくれなかった。
カーテンの隙から差し込む灯のいが、井の目をぼんやりと照らしていた。 枕元に置いたスマートフォンの画面が、を過ぎ、を回り、やがてを指しても、私の目は冴え返ったままだった。 目を閉じると、居酒のを擦ったあの子の鈍い音と、の夜ののに浮かんでいた緑のワンボックスカーの残像が、網膜の裏で交互に滅するのだ。
兄の健は、元の部品メーカーで主任になった。