"父の逝った夜の車" 第1話
製の子の脚が、居酒の板張りのを擦って、く鈍い音をてた。
「ギギッ」と乾いた音がの奥に引っかかった瞬、私の指先は急激にたくなった。
「ほら、千鶴。座り直せよ。し狭かっただろ」
のからってきたのは、聞き慣れた、ししゃがれた穏やかな声だった。 伯父の孝司だった。今で歳になる母の弟だ。
私は反射に肩をすくめ、喉の奥をきゅっと引き締めた。 ちがってトイレから戻ってきた伯父は、私の背にち、親切から私の子の背もたれにをかけてし引いてくれたのだ。 それだけの、何の悪もない、族の集まりでよくある景だった。
けれど、私の腔を突いたのは、伯父の袖から漂う独特の匂いだった。 物のミント系タバコと、械油、それに乾ききっていないの湿り気が混ざりった匂い。 その匂いと、を擦る子の鈍い音、そしてのすりガラスを激しく叩くの音が、のでパズルのピースのように噛みった。
胃の底からたいがせりがってくるような悪寒がった。
「……あ」
声にならない呼吸が漏れ、私はテーブルのの温かい烏龍茶のグラスにを引っかけてしまった。 鈍い音をててグラスが倒れ、琥珀の液体がい皿と刺の盛りわせの縁を濡らしていく。
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「うわっ、千鶴、何やってんだよ」
正面に座っていた兄の健が、眉をひそめておしぼりを伸ばした。歳になった兄は、元の部品メーカーで主任に昇したばかりで、今はそのお祝いを兼ねた席だった。
「ご、ごめん……が滑っちゃって」
「千鶴は昔からぼーっとしてるんだから。ほら、おじさんのズボンにかからなくてよかったわよ。おじさん、すみません、この子ったら」
隣で歳になる息子にフライドポテトをべさせていた姉の美咲が、呆れたように笑いながら員を呼ぶベルを押した。
「いいんだ、いいんだよ。千鶴ちゃん、怪はなかったかい? くなかったか」
伯父は慌てて自分のハンカチをポケットから引っ張りし、私ののテーブルを拭こうとした。 首に巻かれた古いセイコーの腕計。太くて節くれだった指。爪のに黒く染み込んだ落ちない油汚れ。
そのが私の目のに伸びてきた瞬、私は座ったまま、勢いよくを引いてしまった。 背が壁に激突し、どん、とさな音が響いた。
座敷の空気が、瞬で凍りついた。
伯父のが、空でぴたりと止まった。 その顔に、困惑と、ほんのしの傷ついたようなが浮かぶ。
「……千鶴?」
兄がく、咎めるような声をした。
「お、いい加減にしろよ。おじさんが親切でやってくれてるのに、なんだその態度は」
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「違うの、私……ただ、びっくりして」
「昔からそうだろ。おだけ、昔からおじさんを避けてる。今だって兄ちゃんの昇祝いでおじさんがわざわざ都つけて来てくれたのに、最初から言も自分から話しかけないでさ。がないにも程があるぞ」
姉も困ったように息を吐き、膝のの子供のを撫でながら言った。
「そうよ、千鶴。おじさんには私たち、ががらないくらいお世話になってるのよ? 健兄ちゃんの就職のだって、おじさんがげて紹介してくれたんじゃない。私の結婚式のだって、実にそんな余裕ないの分かってて、おじさんがポンと百万円も用してくれたのよ。千鶴だって、もも、おじさんの援助がなかったら通えてなかったかもしれないんだから」
の言うことは、痛いほど正しかった。
に母が病気でくなり、それよりの――私がまだ歳だった頃に父が事故でくなってから、私たち兄妹の活の節目には、常に伯父がいた。
父がくなった当、兄はまだをたばかりで、姉は学、私は学だった。 遺されたのは、築のさな借と、突然の黒柱の喪失という途方もない混乱だけだった。 そんな私たちを、当まだ独で、さな属加の町を営んでいた伯父が、自分の活を削るようにして支えてくれたのだ。
兄が就職先で悩んでいたは、取引先の伝をたどってをげて回ってくれた。