"何番まで落ちたら離婚するの" 第10話
だから、塾にかせて。模試を受けさせてよ。お願いだから……!」
「翔太……」 「僕が勉しなかったら、お父さんとお母さん、困るでしょう!?」
叫ぶようなその声に、私は息を呑んだ。 困る。 なぜ、子供が勉しないと親が『困る』のか。 世般の親なら、「勉しなさい」と叱ることはあっても、子供が勉しないことで庭が崩壊する恐怖など与えるはずがない。 だが、翔太にとっては違ったのだ。 自分の鉛が止まることは、両親を繋ぎ止めている唯の鎹がれることをしていた。
「……分かったわ。無理にへくのはやめましょう。今はで、ゆっくり好きなことをして過ごしなさい」
私がそう言うと、翔太は堵したように息を吐いたが、そのは依然として問題集の端をくなるほど握りしめていた。 結局、翔太は自分の部へ引きこもり、、ドアの向こうで鉛をらせる音だけを響かせていた。
夕方になり、夕飯の支度を終えた頃、翔太が「お呂に入ってくる」と部からてきた。 バスタオルを抱えて洗面所へ向かう息子の背を見送る。 カチャリと呂の鍵が閉まり、勢いよくシャワーの音が響き始めた。
今しかない。
私は吸い寄せられるように、階段を駆けがった。 翔太の部に入るのは、昨夜答案を持ちして以来だった。
夕暮れのが差し込む畳は、驚くほど然としていた。
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歳の男の子の部にあるはずのものが、何つない。 散らかった漫画本も、脱ぎ捨てられた靴も、ゲームも、壁に貼られたアニメのポスターもない。 あるのは、科目ごとに背表のを揃えて並べられた分い参考と、無質なデスクライト、そして棚の最段に飾られた、の全県模試のトロフィーだけだった。 まるで、ビジネスホテルのシングルルームのように、活の体温が綺麗に削ぎ落とされている。
私は部の真んにち、周囲を見回した。 あの復元された婚届は、トロフィーの箱の底にあったと雅は言っていた。 だが、あの子が隠しているのは、あの枚だけではないはずだ。 『僕が位を取ったら、は婚するの?』 あの確信に満ちた言葉の根拠が、どこかにあるはずだった。
机の引きしをけた。 番には、定規と予備の消しゴムが几帳面に並んでいる。 段目には、使い切ったノートの束。 段目には、学からのプリント類。 怪しいものは何もない。
本棚の隙、クローゼットの、制のポケット。 探せば探すほど、あの子の『完璧さ』だけが浮き彫りになり、私の胸を締め付けた。隙がない。親に見られて困るようなものを、この子はどこに隠しているというのか。
ふと、ベッドの元に線を落とした。 製のすのこベッド。
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マットレスの端が、ほんの数ミリだけ、自然に浮きがっているように見えた。
私は膝をつき、マットレスの端を持ちげた。 すのこの隙、ヘッドボードの真のになった部分に、型の属の箱が押し込まれていた。 かつて、私が贈った輸入菓子のクッキー缶だった。 角の塗装が剥げ、何度もけ閉めされた形跡がある。
指先を震わせながら、缶を引きす。 ずっしりとしたみがあった。 蓋をけると、にはオモチャなど入っていなかった。
入っていたのは、百円ショップで売られているような、何の変哲もないB6サイズの学ノートが冊。 表には、黒い油性マジックで、さな文字が几帳面にしたためられていた。
『記録 Ⅰ』 『記録 Ⅱ』 『記録 Ⅲ』
番古いとわれる『記録 Ⅰ』をに取り、恐る恐るページをいた。 最初の付は、の。 翔太が学、あの全県模試の直から始まっていた。
最初のページには、幼さの残る丸っこい文字で、こうかれていた。
『() お父さんは朝ごはんをべなかった。お母さんは度も笑わなかった。 が喋った言葉:つ。 「醤油とって」「そこにある」「ってきます」 ゴミ箱のにあった。お父さんの名とお母さんの名がいてあった。 「婚」のを国語辞典で引いた。夫婦がやめること。族じゃなくなること』
血の気が引いていくのが分かった。
ページをめくる。 そこには、記などという易しいものではなかった。