"何番まで落ちたら離婚するの" 第2話
この期のテストがどれだけ事か、毎のように言って聞かせたじゃない! 私がどれだけあなたのためにを割いて、塾のお弁当作って、スケジュール管理して……!」
「綾子、やめろ。のだ」 雅が腕を伸ばし、私の首を掴んだ。 そのたい触に、私は弾かれたように夫を睨みつけた。
「やめろですって? あなた、この点数が見えないの!? わざと違えたって、翔太が言ってるのよ! あなたがいつも『無理させるな』『子供らしく遊ばせろ』って無責任なことばかり言ってるから、この子がこんなおかしな反抗をするんじゃないの!」 「俺のせいにするな!」 雅の声が、周囲の客を振り向かせるほどに荒げられた。 「おがそうやって、首に縄をつけて引っ張り回すからだろうが! 俺はずっと言ってきたはずだ。おのやってることは教育じゃない、自分のを翔太の成績で埋めてるだけだってな!」
「私の!? 私が誰のためにやってるとってるのよ! 将来苦労しないように、選択肢を広げてあげたくて……!」 「その結果がこれか? 見ろよ、翔太の顔を!」
雅に鳴られ、私はハッと息を呑んで息子を見た。 翔太は泣いていなかった。 両親が目ので醜い罵りいを繰り広げているというのに、を塞ぐことすらしていない。 ただ、どこかい所を見るような、底のれない瞳で、私と雅を交互に見つめていた。
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その唇の端が、ほんのしだけ、諦めのように歪んでいるように見えた。
「ごちそうさまでした」
翔太はそう静かに呟くと、広げられた答案用を乱暴にリュックへ押し戻し、席をった。 「翔太!」 呼び止める私の声を背に受けながら、息子は伝票を持ってレジへと歩いていく雅にも目を向けず、でファミレスの自ドアをていってしまった。
郊の夜が、温かく頬を撫でた。 駐のアスファルトのに落ちる灯のが、やけにく、痛々しかった。
*
までの内は、完全な沈黙に支配されていた。 運転席の雅は方を凝したまま度もをかず、助席の私もまた、フロントガラスに映る並みをただぼんやりと追うことしかできなかった。 部座席の翔太は、ヘッドライトのが差し込むたびに、窓に暗いを落としていた。
に帰り着くと、翔太は靴を揃え、「おやすみなさい」とだけ言って階の自分の部へがっていった。 階段をる規則正しい音が途絶え、ドアがカチャリと閉まる。
リビングに残されたのは、私と雅だけだった。 雅は無言のままスーツの着を脱ぎ、キッチンの蔵庫から缶ビールを本取りした。プシュッ、と炭酸の抜ける音が、静まり返ったリビングに乾いて響く。
「……ねえ、雅」 私はキッチンカウンター越しに、夫の背に声をかけた。
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「あなた、何かってるの?」 雅はビールをあおり、振り返りもせずに答えた。 「るわけないだろ」
「嘘よ」 私はテーブルに両をついた。指先が微かに震えている。 「あの子、なんて言ったか覚えてる? 『僕が位を取ったら、は婚するの』って。あんな言葉、親の顔を見て育った子が、何の理由もなくにするはずがないじゃない。あなたが、あの子に何か吹き込んだんじゃないの?」
「吹き込む?」 雅はようやくこちらを向いたが、その瞳には何のも宿っていなかった。 ただただ、底れぬ疲労だけが澱のように溜まっている。 「俺が翔太に、母親と婚したいなんて愚痴をこぼしたとでも言いたいのか? 馬鹿馬鹿しい。俺があいつと最にまともに話したのは、先週の曜の朝だ。『学くのか』『うん』、それだけだ。話す隙なんてないだろうが。あいつのは、全部おのスケジュールで埋まってるんだからな」
「私はあの子の将来のために……!」 「その台、もう万回くらい聞いたよ」 雅は吐き捨てるように言い、缶ビールを持ったままリビングをていった。 「今夜はもう寝る。勝にで反省会でもしてろ」
パタン、と階の寝のドアが閉まる。 広いリビングには、掛け計の秒針の音だけが残された。 チク、タク、チク、タク。 正確にを刻むその音が、私の胸の悸となり、耐えがたい圧迫となって押し寄せてくる。