"何番まで落ちたら離婚するの" 第1話
「あのさ、僕が位を取ったら、は婚するの?」
ナイフとフォークがカチャリと音をてて皿に触れた。 ファミレスの賑やかな喧騒、隣のボックス席から聞こえるさな子供のぐずる声、厨から運ばれてくるハンバーグの脂の匂い。そのすべてが、瞬にしてのいていくような覚だった。
私と夫の雅は、同に息を止めた。
「翔太……何言ってるの?」
私の喉から絞りされた声は、自分でも驚くほど擦っていた。 目のに座る息子の翔太は、今で学になる。歳。しまで丸みを帯びていた頬はすっきりと引き締まり、父親によく似た涼やかな目元をしている。 翔太は取り乱す様子もなく、ただ淡々と、めかけたオムライスの端をスプーンで崩していた。
「翔太、そんな変な冗談はやめなさい」 雅がく言った。いつも通りの、波をてまいとするの声音だ。スーツのネクタイを緩め、スマートフォンをテーブルの脇に伏せて置く。 「お父さんとお母さんが、婚するわけないだろう。どこでそんな言葉を覚えたんだ」
「冗談じゃないよ」 翔太はスプーンを置き、さく息を吸い込んだ。 その線は雅でも私でもなく、テーブルの真んに置かれたナプキンの束に向けられている。 「じゃあ、聞き方を変えるね。僕は、何番まで落ちたら、は別れるの?」
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背筋をたい針で撫でられたような戦慄がった。 「何番って……翔太、あなた、今度の模試がなの? 丈夫よ、先週の難関オープンだって、算数はし平均点がかったけれど、あなたの偏差値なら充分格圏内だって先も」 「お母さん」 翔太が私の言葉を遮った。 いつもなら、私の言うことに「うん」と頷くだけの優しい子が、刃物のような静けさで私の目を見据えていた。
「そういう話をしてるんじゃないんだ」
翔太は元に置いていた通塾用のリュックサックのファスナーを引いた。 滑らかな属音が、やけにきく響く。 引きされたのは、つ折りにされた数枚の解答用だった。塾の毎週の確認テストと、学で受けている単元テスト。青いのと、い藁半。
バサリ、と音がして、私の目ののテーブルにそれが広げられた。
目に入った瞬、目の奥がちかちかと滅した。 赤いインク。太いサインペンで引かれた、容赦のない「×」の群れ。
52点。 48点。 61点。
信じられない数字だった。 翔太は学の頃から、塾でも学でも、常に学位を維持してきた子だ。ケアレスミスですら泣いて悔しがるような子が、こんな点数を取るはずがない。何かの違いだ。同姓同名の別の答案が紛れ込んだのだと、本気でった。
だが、名の欄には、几帳面でし角ばった翔太の跡で、違いなく『森 翔太』とかれていた。
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「これ……どういうこと?」 震えるで、番にあった算数の答案を引き寄せる。 設問の番。分数の則演算。 『3/5 ÷ 2/7』 誰もが最初の秒で解くはずの計算問題。その答えの欄に、翔太はあり得ない数字をき込んでいた。約分すらしていない、ただの乱数のような数字。 続く番の図形問題。角度を求める基本問題。補助線を引くまでもない基礎の基礎に、きな赤いバツがついている。
「これ、全部基礎問題じゃない。あなた、こんなところで違えるわけ……」 私の言葉は、最まで続かなかった。 線をに滑らせていくにつれ、異様な寒気が指先からいがってきたからだ。
半の応用問題。問、問。 県内最難関の私学を狙う位数パーセントの徒しか解けないはずの、複雑なの数や、体の切断問題。 そこには、びっしりと計算の痕跡が残され、完璧な正解の印である赤い丸がついていた。
基礎が全滅で、最難関レベルの応用だけが全問正解。 そんな歪な答案がするはずがない。
「全部、わざと違えたんだ」 翔太は、まるでお気のでもにするような軽やかさで言った。 「簡単だったよ。どれを違えれば、何点引かれるか、配点は最初からいてあるからね」
「わざと……?」 私ののの回が、音をてて焼き切れていく。 「なんでそんなことするの!? 翔太、あなた自分が何を言っているのか分かっているの? あとヶで本番なのよ。