"レジ打ちの妻は恥ずかしい" 第16話
ドアスコープを覗くと、たいに全ずぶ濡れになった翔平がっていた。 自のオーダーメイドスーツはで汚れ、万円の計を巻いたで、必にドアを叩いている。
「母さんも反省してる! 俺が……俺が悪かったんだ! 式を取りやめたら、俺は会社にいられなくなる! 親戚から絶縁されるんだ! チーフの昇だって取り消されちまう! 千、頼むよ……! 俺はおをしてたんだ! 本当にしてたんだよ! 仕事を辞めてほしかったのは……おに苦労させたくなかったからなんだ! 俺の気持ちを分かってくれよ!」
音に混ざる、勝な懇願。
私はチェーンをすことも、鍵をけることもしなかった。 ドア越しにつその男は、今この瞬ですら、「自分の会社での」と「自分の保」のために泣いているのだ。 私へのなど、最初から欠片もしなかった。彼がしていたのは、どこまでも自分自の見栄だけだった。
私はドアノブから静かにをし、部のかりを落とした。
たい鉄の扉の向こうで、男の泣き声と音だけが、夜のに虚しく吸い込まれていった。
たいがり続いた夜がけると、嘘のように澄み渡ったれの空が広がっていた。
昨晩、アパートの扉の向こうで叫び続けていた翔平の音は、夜を過ぎた頃に途絶えていた。
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朝、いスチールの扉をけると、そこには吸い殻が本落ちていただけで、たいが湿った踊りを吹き抜けていくだけだった。
私は所のコンビニで温かいカフェラテを買い、呼吸をした。 青くい空を見げると、胸の奥をく塞いでいた澱のようなものが、朝のに溶けていくのをじた。
泣く暇などなかった。 傷に浸る権利すら、今の私にはまだ残されていない。 あのたちとの関係を綺麗さっぱり清算し、奪われかけた自分の尊厳と財産を取り戻すための、現実で事務な続きがのように残されていた。
私はそのの午、休暇を使って、弁護士の事務所へと向かった。 部が「りいに頼りになる法律の専がいる」と紹介してくれた、域密着型のさな事務所だった。
「佐伯さん、類はすべて拝見しました。非常に然と記録を残してくださっていたので、こちらの主張は百パーセント通りますよ」
髪交じりの温な弁護士、川先は、私が提した通帳のコピーや領収、リボ払いの細を机に並べながら力く頷いてくれた。
「居の敷礼、具の購入費、式の付。これらはすべて『婚姻を提とした費用のて替え』であり、破綻の原因が翔平氏側の額の債務隠蔽、ならびに母親による実への脅迫・傷害為にあることはです。
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式の違約も含め、あなたが円たりとも負担する義務はありません」
「ありがとうございます。……すべて、法に則ってめてください」
「承しました。本付で、内容証郵便にて婚約破棄の通、ならびに替百万円の返還請求、および式違約の全額負担誓約を発送します。期は週。応じないは、即座に与の差し押さえ、ならびに裁判所への提訴へ移する旨を記しておきます」
械のように淡々とむ続きの音を聞きながら、私は徹な堵を覚えていた。 をぶつけえば沼になる。だが、社会の法と数字のにてば、彼らが振りかざしていた「の格式」などというは、ただの屑に過ぎないのだ。
川先からの内容証が届いた翌、事態は劇な速度できした。
いたのは、伯父の宗様だった。 、教育者として域の信望を集めてきた宗様にとって、甥である翔平が犯した実と、義妹である悦子の暴挙は、族の名折れ以の何物でもなかった。
宗様はすぐさま翔平と悦子を実に呼びし、親族会議の席でを徹底に糾弾したという。 逃げを失った翔平は、泣きながら自らの借を状した。 消費者融からの借り入れ、リボ払いの残、そして見栄のために買った級品。
宗様は翔平に対して、即座に自らの私物をすべて売却して返済に充てるよう命じた。