"恩人弁護士の不可解な書類" 第20話
神弁護士の眉がピクリとねた。
「また」
榎本先の声が、段く、さを増した。
「相方が主張する『業務横領』なる言いがかりについてですが、昨、相方法務部の及川氏が矢野氏に対して直接渡した『』の文面を提します。そこには、矢野氏が法廷での証言を拒絶すれば百万円の解決を支払い、横領の追及も切わない旨が記されています。真実横領の事実があるならば、なぜを払ってまで封じを図る必があるのか。これはな証威迫であり、証拠隠滅の企てです」
審判の鏡の奥の目が、鋭くった。 審判員が顔を見わせ、眉をひそめる。
「なっ……!?」
及川の顔から、瞬で血の気が引いた。 まさか、に秘密裏に提示した類のコピーが、そのまま法廷に提されるとはっていなかったのだ。
「で、鱈目だ! それは単なる示談の打診であって……!」
及川が取り乱して声を荒らげるのを、神弁護士がで制した。だが、神自の額にも、微かに汗が浮いていた。
「……相方の弁解はで聞きます」
審判がややかに及川を制した。
「それでは、申側の証拠調べに入ります。証、矢野真さん。証言台へ」
私はパイプ子からちがった。 元は、議なほど軽かった。 証言台のにち、宣誓を読みげる。
「良に従って真実を述べ、何事も隠さず、偽りを述べないことを誓います」
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榎本先が、私の正面にった。
「矢野さん。あなたが株式会社〇〇商事に籍していた際、藤堂専務から受けた指示について述べてください」
私は、く息を吸い込んだ。 あの暗い神保町の事務所で、泣きながら榎本先に打ちけたのことがいされた。 あのは、暗ので怯えているだけだった。 だが今は、のので、自分の声で語ることができる。
「はい。私は総務部において、備品管理および役員決裁用の印鑑の保管業務を担当していました。藤堂専務は、常に正規の稟議ルートを通さない支払伝票を持ち込み、私に『判を押せ』としていました。私が躊躇すると、専務はいつもこう言いました。『印鑑はあんたがで押したんだ。察して自分から引け』と」
審判に、私の声が響き渡る。 藤堂が苛たしげに貧乏ゆすりを始めた。
「嘘を言うな!」
藤堂が席からを乗りした。
「そんな言葉、言った覚えはない! 私は総務の印鑑など触ってもいない! 梨が勝に持ちして、架空のペーパーカンパニーに百万円を振り込もうとしたんだ! 私はそれを発見して叱責しただけだ!」
「そうですか」
榎本先が、静かに藤堂を見つめた。
「藤堂さん、あなたは今、ご自ので『総務の印鑑など触ってもいない』とおっしゃいましたね」
「当たりだ! 役員がなぜ備品の印鑑などをいちいち触る必がある!」
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「審判」
榎本先が、私を振り返った。 図だった。
私はカバンの底から、あの古びた、角の擦り切れたノートを取りした。 枚複写式の、個な管理簿。
「甲第号証を提します」
榎本先の声が、法廷の空気を切り裂いた。
「これは、矢野真氏が総務部において個に記録していた『物品持管理簿』の原本です」
記官がそれを受け取り、審判の元へ運ぶ。 審判がページをめくった。
「、分」
榎本先が、藤堂を指差した。
「申である梨郁恵氏が、架空伝票への押印を拒絶し、藤堂専務から恫されたまさにその直です。藤堂専務は総務部の矢野氏のデスクへ自ら赴き、専務決裁印および経理承認印を持ちしています。そしてそこには、持として藤堂康則本の自署サインが記されています」
藤堂の顔が、凍りついた。
「サ……サイン……?」
「カーボン複写による、当の跡です」
審判が、元の原本を虫鏡で確認しながら、藤堂を厳しく見ろした。
「相方・藤堂さん。ここにある『藤堂』という署名は、あなたの跡ですね」
「い、いや……それは……何かの違いで……」
藤堂の喉が、引き攣ったようにいた。
「このは、張にていたはずで……」
「張記録も確認済みです」
榎本先が、髪入れずに類を叩きつけた。
「あなたが社用を呼んだのは、同の分です。