"恩人弁護士の不可解な書類" 第15話
『本午、町〇〇カフェにて待つ。 株式会社〇〇商事 法務部 及川』
藤堂の息のかかった、会社の法務トップだった。 逃げることはできなかった。 だが、今の私には、昨のような恐怖はなかった。 私は複写メモの鮮なカラーコピーを数枚取り、枚をカバンの奥底に、もう枚を梨さんへの郵送用レターパックに入れ、原本は自宅の最も全な所に隠した。
指定されたカフェは、町のオフィスを見ろすホテルのラウンジだった。 落ち着いたクラシックが流れる空の奥で、えられた髪の、神経質そうな男が座っていた。 及川法務部だった。
「矢野さんですね。どうぞ」
及川はちがりもせず、元のコーヒーカップを揺らしながらややかに言った。 私が席に着くと、彼は周囲に聞こえないようない声で、本題を切りした。
「単刀直入に言います。藤堂専務から話は聞いていますね。あなたが最、梨の労働審判に関わろうとしている件です」
「……関わろうとしている、とは?」
「とぼけないでいただきたい」
及川はアタッシュケースから、通の類を取りし、テーブルのに滑らせてきた。
『』と題されたその類には、箇条きでいくつかの条件が並んでいた。
「梨の提した準備面に、あなたの発言とおぼしき記述がある。
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あれについて、裁判所から照会があった際、『切そのような事実はない。梨による捏造である』旨の陳述を通、いていただきたい」
「私が、嘘の証言をしろと?」
「聞きが悪いですね。事実の修正ですよ」
及川は笑いを浮かべ、胸ポケットから万を取りした。
「その代わりと言っては何ですが、会社側としても、あなたのこれまでの貢献を評価したいと考えています。解決として、現で百万円を即お支払いする。さらに、あなたの次の就職活において、極めて利になる推薦状を、本社代表取締役の名義で発します。職での解雇の記録も、円満な期満退職として事データをき換えます」
百万円。 そして、完璧な元保証。 派遣社員としてをもれぬ暮らしをしている私にとって、それは喉からがるほど魅力な提案だった。 これを受け入れれば、あの画の悪から完全に解放され、まともな正社員としてのをやり直せるかもしれない。
だが、及川の目は笑っていなかった。
「逆に……もしこの提案を拒否し、梨側にって余計な証言をするのであれば、会社としても相応の対応を取らざるを得ない」
及川はを乗りし、声を潜めた。
「あなたが籍、総務の経費精算において、交通費や備品代の自然な請求が複数見つかっている。
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額にして数万円。もちろん、会社はこれまで見逃してやっていましたがね。……警察に業務横領で告訴状をす準備は、すでにっています」
「そんな……! 私がそんなことするはずありません!」
「警察がどう判断するかは、証拠次第ですよ。社内規定の解釈つで、あなたのずさんな事務処理はいくらでも犯罪に仕てげられる。ネットの炎も、再燃するでしょうね。『横領でクビになった派遣OLが、逆みで会社を訴えた』……世がどちらを信じるか、あなた自が番よく分かっているはずだ」
徹な、逃げのない脅迫だった。 かつて佐伯がネットの悪を使って私を殺しかけたように、今度はこの巨な組織が、法と権力を使って私を社会に抹殺しようとしている。
これが、組織のやり方だ。 自分たちの正を隠すためなら、蟻を踏み潰すように、ののなど平気で破壊する。
私は、膝ので握りしめた拳を見つめた。 りで、界が真っ赤に染まりそうだった。 だが、私は顔をげた。 表を消し、静かに及川を見つめ返した。
「……持ち帰って、検討させてください」
及川は満そうに元を歪めた。
「賢な判断を期待していますよ。の夕方までにサインしたを返送してください。それで、全ては円満に解決します」
私はを受け取ることなく、席をった。
カフェをた私のは、迷うことなく神保町へと向かっていた。 今度は、逃げるためではない。