"恩人弁護士の不可解な書類" 第11話
「だからって……!」
「ええ、わかっています! あなたの許を取るべきだった!」
榎本が、初めて声を荒らげた。 だが、その叫びはすぐに々しい告へと萎んでいった。
「でも、もしあの、あなたに『この話を別の裁判で使わせてくれ』と頼んだら、あなたはどう答えたでしょうか。ただでさえネットの誹謗傷で傷つき、怯え、信になっていたあなたに、さらにの会社の沼の紛争に証として巻き込まれてくれと頼むことなど、到底できなかった……。だから私は、佐伯の件を全力で解決し、あなたの常を取り戻すことを最優先にしました。それは嘘偽りのない、私の本です」
榎本は渇いた唇を舐めた。
「そして……佐伯の調が終わり、あなたの全が確保された、私は誘惑に負けました。郁恵の準備面の提期限が迫っていた。藤堂側の弁護団から『証拠分による却』を求める力な申がされていた。このままでは負ける。郁恵が壊れてしまう……。そうい詰めた私は、あなたの陳述から、個を特定できないよう匿名加したで、あの言葉を引用してしまったんです」
部のに、い静けさが戻ってきた。
榎本の言っていることは、論理には完全に破綻していた。 どれほど崇ながあろうと、どれほど相がな被害者であろうと、弁護士が別の依頼の秘密を無断で流用していい理由になどならない。
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それは、らかな裏切りであり、職業倫理に対する冒涜だった。
だが――。 目ので憔悴しきった顔でをげるこの男を、私は「悪魔」と呼ぶことができるだろうか。
彼が佐伯を追い詰めてくれたの、あの凄まじい量。 私のために夜を徹して集めてくれた、駅の防犯カメラの秒単位の記録。 あれは違いなく、私を救うためのものだった。 彼は私を救い、そして今、別の誰かを救うために、のにを踏み入れていた。
「矢野さん」
榎本は、静かに私を見つめた。
「私は弁護士失格です。あなたが今すぐ弁護士会の綱紀委員会に駆け込み、私を懲戒請求しても、私は切異議を申してません。資格を剥奪されても、当然の報いです。あなたを傷つけた代償は、どんな形でも払います」
榎本は、両を膝のに置き、くをげた。
「ですが……勝を承で、最にお願いがあります。梨郁恵を助けてやってくれませんか。あの陳述を正式な証拠として法廷でかすためには、あなたの正式な陳述と、もし能なら証としての証言が必です。藤堂の逃げを完全に塞ぐには、あなたの力が必なんです」
「……私が、証に?」
声がかすれた。 像しただけで、臓が凍りつきそうだった。 また、あの藤堂と法廷で対峙するのか。 ようやく静まりかけた私の活を、再びあの沼に投げ込めというのか。
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そのだった。
私のコートのポケットので、スマートフォンが鋭く、執拗に振した。
ブブッ、ブブッ、ブブッ。
あまりにも吉なタイミングだった。 私は榎本の線をじながら、震えるでポケットからスマホを取りした。
画面に表示されていたのは、登録のない番号からのショートメッセージ(SMS)だった。 だが、その文面を見た瞬、私の背筋を氷の刃で撫でげられたような悪寒がった。
『矢野、久しぶりだな。藤堂だ。 お、最梨の周辺を嗅ぎ回っているらしいな。 あんな精神異常者の肩を持って、会社に喧嘩を売るつもりか? せっかくの画の件が落ち着いて、静かに暮らせるようになったってのに……またのまいみたいに、ネットに名を晒されてきていけなくなってもいいのか? 自分が今、誰を敵に回そうとしているのか、よく考えろよ』
画面が、滲んだ。
恐怖が、津波のように押し寄せてくる。 藤堂は、見張っていたのだ。 私が裁へき、梨さんのアパートへったことを、すでにっている。
私は息を詰まらせ、スマホを握りしめたままち尽くした。
目のには、私を救い、そして私を裏切った、罪き弁護士がをげている。 そして元には、再び私の常を獄へ引きずり戻そうとする、かつての支配者からの脅迫状があった。
画面に浮かぶ『藤堂』の文字が、網膜の裏で青く滅していた。