"恩人弁護士の不可解な書類" 第1話
スマートフォンの画面を差し指で弾くたび、私のが削れていく音がした。
「矢野さん、これ、あなたですよね」
会議の細いテーブルの向こうで、総務部の松永が液晶画面を私の方へ滑らせてきた。 画面のでは、朝の通勤ラッシュに揺れる千代田線の内が映っていた。 吊り革に掴まる私の横顔が、わざとらしく拡されている。 そのに、太い赤文字のフォントで劣な見しが躍っていた。
『【激写】満員で妊婦に肘打ちして席を奪う傲OLの末www特定班急げ』
画は分らずのものだった。 だが、そこに映る私は、確かに妊婦らしき女性のに割り込み、肘を突きし、空いた席に無表で腰をろしているように見えた。
実際には、まったく違っていた。 元によろけて倒れそうになったその女性を支えようと腕をした瞬、背から突きばされ、はずみで座席に倒れ込んだだけだった。 席を譲ろうとすぐにちがった面は、綺麗に切り落とされていた。
だが、そんな事実はどこにも残っていない。 再回数は、公からわずかで百万回を超えていた。 コメント欄には、数千件の罵詈雑言が並んでいた。
『顔がすでに性格悪そう』 『こういう女は社会から消えるべき』 『勤務先、丸の内の某商事系子会社らしいぞ』 『特定した。
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矢野真、歳。派遣の受付・般事務』
「社名まで特定されています」
松永部は、ため息混じりに言った。その線は私の目ではなく、私の胸元にがった社員証のストラップに向けられていた。
「本社の広報にも問いわせが殺到している。うちのようなコンプライアンスをする企業で、こういう形で名がるのは非常に困るんだよ。派遣元にはすでに話を通してある。今末付、いや、今付で契約は終ということでしてもらった」
「……待ってください。私は何もしていません。全部、切り取られた嘘なんです。駅の防犯カメラを見てもらえれば」
「警察じゃないんだから、会社がそこまで調べる義務はないよ」
をいたのは、それまで腕組みをして黙っていた常務の藤堂だった。 藤堂はいつも仕てのいい濃紺のスーツを着て、笑いを浮かべている男だ。 社内では誰もが彼の嫌を伺っていた。
「矢野さん。事実はどうあれ、世がどう受け取ったかが全てなんだよ。君がいるだけで、会社のイメージにが塗られる。察してくれよ。波をてずに、自分からを引くのがのやり方だろう?」
藤堂の目は、え切っていた。 彼が私を切り捨てたがっている理由は、画の炎だけではないことを、私はっていた。 先、私が総務の備品管理と経理の補助をしていた際、藤堂の決裁類に添付されていた自然な領収の束について、正規の続きを尋ねてしまったことがあった。
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あのから、藤堂は私を煙たがっていたのだ。画は、彼にとって都のいい実に過ぎなかった。
そののうちに、私は私物を段ボールひと箱に詰め、通用から放りされた。
悪は、会社を追いされても終わらなかった。 アパートの郵便受けには、宛名のない誹謗傷のチラシがねじ込まれていた。 夜にインターホンが執拗に鳴らされ、ドアスコープから覗くと、フードをくかぶった見らぬ男がスマートフォンを構えてっていた。 管理会社からは「の民への迷惑を考慮し、自主退をご検討いただけないか」という丁寧な脅迫のような文が届いた。
カーテンを完全に閉め切り、部のかりを消して、たくなったコンビニのおにぎりをかじる。 スマホの通が鳴るたびに臓がねがり、呼吸が浅くなった。 世界が私を指差し、笑い、を投げている。 自分が何の罪を犯したというのだろう。ただ、あの朝、あのに乗っていただけなのに。
私は震えるで、インターネットの法律相談窓を検索した。 名誉毀損、肖像権侵害、画削除。 すがるいで軒の法律事務所に話をかけた。
だが、返ってくる言葉は判で押したように淡だった。
「相がの匿名掲示板やSNSのアカウントだと、発信者報示請求だけで数万かかりますよ。