"七歳の女の子が握りしめた富士山の木札" 第18話
引き止める言葉が浮かばなかったのではない。浮かんだ言葉をにする資格が俺にはないとった。雇い主が従業員に「実に帰るな」とは言えない。俺と若林さんのにあるのはそれだけの関係なのだ。
その夜、閉の脱所でが若林さんと話をしていた。俺は2の話を番台から聞いていた。
「お母さん、おじいちゃんのところに帰るの?」
「どうかしらね」
「帰りたい? は?」
「私はここがいい」
の発言に若林さんは答えなかった。タオルを畳むを止めて番台の方を1度だけちらりと見ていた。俺は気づかないふりをして帳面をつけるしぐさをする。若林さんはすぐに線を戻して、またタオルを畳み始めた。
「お母さんもここが好きでしょ?」
「そうね」
「じゃあ、なんで考えるの?」
「好きなだけでは決められないこともあるのよ」
俺はその言葉にし揺して、同じ言葉を3度いていた。
8の夜は閉してからも湯気が抜けない。そのも掃除は男湯から始めた。はいつものように脱所の子で寝てしまっている。栓を抜いて湯が落ちてから若林さんと2で浴槽内にりる。
湯の浴槽は声がよく響く。俺は壁を見げた。の褪せた富士が裸球のでぼんやり見えている。青が抜けて、のもになっていた。
「宮さん」
「はい」
「ここのはうちのより温かいです」
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俺は若林さんの話にを傾けた。
「うちのって、アパートの方ですか?」
「実方のほうです」
若林さんは壁の方を見たままだった。
「実の呂は広かったんです。窓から庭が見えて、湯舟にを伸ばしても届きませんでした。それなのに温かいとったことが1度もないんです。く入っているとくがりなさいと言われましたから」
たわしの音が止まっている。俺も止めていた。
「がこので初めてったんです。線を抜く役をやりたいって。あの子が自分から何かをやりたいと言ったの。私はあのまで聞いたことがありませんでした」
胸ので言葉がいた。喉のところで引っかかってみ込んで、いつもならそれで終わる。20、俺はそうしてきた。だが今の俺はみ込んさなかった。
「さ苗さん」
呼び方を変えたことに自分でも驚いた。だがその方が彼女のに響く気がした。
さ苗さんが振り向いた。
「俺は料袋を3もけられないを、まれて初めて見ました。あれは『けたらなくなってしまいそう』だと言いましたね。あんな怖がり方をするがこの世にいるのかといました。それだけじゃありません。仕事に懸命な姿。俺と同じで聞くのがなこと。それに優しい笑顔も。今の俺は、毎あなたのことばかり考えています」
「宮さん、あなたのがお持ちだとったからではありません」
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さ苗さんが息を吸った。俺はを決して言葉をついだ。
「実に戻らないでほしいです」
がなくなった浴槽ので、声がったよりきく響いた。
「こののためじゃありません。番台のの課でもありません。俺のところにいてほしいんです。あなたにここにいてほしい」
さ苗さんはをいて何も言わなかった。目の縁が赤くなっていく。
「俺は14のに母がをました。本当はかないで欲しいとっていました。言そう言えば母は残ったといます。だから言わなかったんです」
「宮さん……」
「それから1度も、20自分がどうしたいかをにしてきませんでした。でも今回はどうしても、自分の気持ちを抑えきれませんでした」
さ苗さんの両が顔を覆った。それでも隠しきれずに指のから声が漏れた。空の浴槽のでその声が反射してきくなった。
「私、断らないといけないとっていたんです」
「なぜですか?」
「宮さんにこれ以いただくわけにはいかないと、ずっとそうってきました」
さ苗さんは顔をあげた。目が真っ赤だった。
「でも私、ここにいたいです」
俺はすぐ返事をしようとしたが、声がなかった。し遅れて、やっとのいで答えた。
「いてください」
「はい」
「ずっとです」
「はい」
「湯の女は楽じゃないですよ」
「もう半やっています」
「そうでしたね。さ苗さんこそ覚悟してください。私、掃除はやめませんから」