"七歳の女の子が握りしめた富士山の木札" 第15話
「それでをたんですか?」
「はい。鞄1つです。それから10。1度も連絡していません」
たわしをかせては止まらなかった。
「くに今の……の主と結婚しました。で働いていたです。派なところが何もないで、休みのは1を肩に乗せて歩いていました」
「その旦さんは……」
「3にくなりました。病気でした。分かってから半もありませんでした」
若林さんはを流して次の所へ移った。
「は4歳のでした。あの子が父親の顔をどれだけ覚えているのか、私には分からないんです。写真は見せています。でも覚えているのと、見てっているのとは違うでしょ」
「そうですね。それが1番辛いんです」
「父親のことは話さないんですか?」
「話しています。でもあの子は聞きたがらないんです」
「なぜですか?」
「私が泣くからだといます。だからあの子は聞かない方を選んだんでしょう」
「7歳の子が選ぶことじゃないですね」
「はい。なのに私は、そうさせてしまいました」
俺はしばらく黙ってをこすった。それから自分の話をした。
「うちの親父も俺が12のにくなりました。薪を取りにった帰りに事故です」
「そうだったんですか」
「その、母が2ほど経って俺が14のに再婚して、隣の県にきました。俺はじいさんの元に残って、それからずっとここにいます」
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「お母様とは?」
「毎お盆と正には話が来ます。別にんでもいません」
それは本当だ。んでいない。あの夜、俺が母親に本当の気持ちを言えなかったことは話さなかった。確かに話そうとするといつも喉のところで止まる。20止まっているものが磨きのついでにてくるはずもない。
「宮さんは話さない方ですね」
「話すことがないだけです」
「そういうほど1番いものを持ってるんです」
「買いかぶりですよ」
若林さんはそれ以聞かなかった。
「そろそろ起こします。寝かせていいですよ。うちは子だけは余ってます」
「甘やかさないでくださいよ」
脱所ではの寝息だけが聞こえた。
7の初め、商の「内」のが来た。暑くなってからは何度もやる事だが、そのの1回目だけはを決めて総でやる。使うのは楓湯の残り湯だ。祖父の代から桶とホースをすのはうちの役目になっている。
朝のうちに湯を落として、通りへ引く。俺と若林さんで桶に組み、にはさい桶を持たせた。
「これ、私の」
「こぼすなよ」
「こぼさない」
畳に湯がかかると、い湯気がふわりとった。面をうように広がって、通りの端までっていく。煙売りた! 湯気だ。
「もう1回、順番よ。魚さんのまで残しておかないと」
「ねえ、なんでいの?」
「面が暑いからだ。
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たいで巻いてもこうはならない」
「じゃあ、うちの湯じゃないとダメなんだ」
「昔からうちがすことになってる。じいさんの代からな」
「私の代もやる」
「気のい話だな」
魚は自分の先でホースを空に向けて振り回していた。がまいて先の箱も自分のも全部濡れた。
「涼しいだろ。あんたが濡れてどうする?」
笑い声ががった。元の老はに子をして、何も言わずにその様子を見ていた。氷に笑い声が広がった。この町が1で1番綺麗に見える朝だ。
が畳をり回るのを、商のたちが目で追っていた。誰かが若林さんの方を見て言った。
「3代目のところのが来て、湯のが賑やかになったね」
若林さんは桶を持ち直して、しだけ笑った。それだけだった。俺はその横顔を見てしまった。見た途端、なんだか顔がくなった。俺はごまかすように、慌てて桶に湯を組んだ。若林さんが何も言わなかったことにがあるのかどうかは、考えないことにした。考えると自分のの何かがきすような気がした。
片付けの途で、魚がホースを巻きながら言った。
「そういえば3代目、この辺でを探してる男がいたぞ」
「ですか?」
「母親と娘の2暮らしを探してるって、うちにも聞きに来た。は60くらいでな。妙にきちんとした話し方をする男だった」
「何か言ってましたか?」
「うちはらんと答えたよ。今そういうのは軽々しく教えられんからな」
俺は頷いて桶を積みげた。