"七歳の女の子が握りしめた富士山の木札" 第11話
なので、番台を伝ってもらえませんか?」
若林さんの目が止まった。
「番台は座り仕事です。札を渡してを受け取って、牛乳の管理をする。それだけです。てないなら座ったままでいい。腰が痛いは休んでもらって構いません」
「そんな都のいい仕事は……」
「都よくはありません。朝はいですし、夜は9までです。は寒いし、は脱所が蒸します。若林さん、との料がどのくらいになるかも先に言います」
俺は昨のうちに計算しておいた額をにした。決してくはない。それでも賃の額は超える。
「それから、うちで働く従業員はが無料です。からそういう決まりです。だから若林さんとが湯を使うのは、ただの福利です」
話を聞いた若林さんはしばらく黙っていた。それからこう言った。
「宮さん、それは私のために作った仕事でしょ」
さすがに都が良すぎただろうか。だがそれを認めてしまうと、このは絶対に受け入れない。俺は度息を吸って、言いたくなかったことを言った。
「うちは、もう俺1じゃ回らないんです」
若林さんが顔をげた。
「番台に座っていると釜が見られない。釜にけば番台が留守になる。女湯の掃除は男の俺には限りがあるし、客が減った理由の半分はそこだとってます。正面の数字は毎落ちています。
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祖父がきていた頃の半分もない。誰かにに入ってもらわないともうがないです」
自分ののけないところをに話したのはこれが初めてだった。声がったよりくなった。
「だから来てもらうと助かります。俺の都です」
若林さんはをかなかった。畳のの富士の札を見ていた。その、が彼女の袖を引いた。
「お母さん……」
「」
「あそこ、あったかいよ」
い言葉だった。その言葉だけで、若林さんの肩がりるのが分かった。
「宮さん、1つだけ約束してください」
「何ですか?」
「私が使えないとったら、そののうちに言ってください。けでは置かないでください」
「わかりました。本当ですね。うちは客商売です。使えないを番台には置きません」
若林さんは壁からをして、をかけて座り直した。膝を揃えて、背を伸ばして、それからをげた。
「お世話になります」
俺は返事をしようとして、うまく声がなかった。代わりに俺もをげ返した。
アパートからの帰りがけ。坂を登る途で俺はようやく息を吐いた。していた。断られなかったことに自分でも呆れるくらいしていた。なのは本当だ。それでも俺があの部へ2度にった理由は、分だけが理由ではない。だが、その理由が今の俺にはまだはっきりと分からなかった。
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その夜845分にのれんがいた。
「こんばんは」
「3ぶりだな」
「4だよ」
「そうか、4か」
は俺がアパートで渡した富士の札を胸に抱えていた。箱ので靴を揃え、準備していた踏み台を使って札を棚の1番の所に差し込む。ロックをしたに靴を棚に入れる。湯からがったが腰にを当てて牛乳をみながら聞いた。
「ねえ、今は何の湯?」
「根湯だ」
「根?」
「葉っぱを干したやつを入れてある。体がえにくくなる」
「べる方じゃないんだ」
「うなよ」
「べないよ。は何の湯だとう?」
「根」
「今と同じじゃないか。じゃあニンジン」
「そんな湯はない」
「作ればいいのに」
「ニンジンの湯なんか誰も入らない」
「私は入る」
「1しか入らない湯は沸かせないんだよ」
は笑って、それから壁の富士を見げた。俺は番台で正面をいた。数字は昨と変わらない。それでも今の帳面は昨とは違って見えた。
若林さんは次の週からに来た。最初の仕事は番台に座ることだけだ。客が来たら札を渡してを受け取って、湯がりの牛乳の管理をする。それ以は何もしなくていいと言ってある。
それでも初めの数は30分座っているだけで額に汗が浮いていた。閉の、子からてずにしばらくけないが続いた。は母の横にって、客が入ってくるたびに札を渡す係を変わろうとした。
棚の1番にを伸ばして届かず、俺の方を見る。