"七歳の女の子が握りしめた富士山の木札" 第5話
「客は瓶の向きなんか見ないぞ」
「私が見る」
「そうか、じゃあ好きにしろ。あとね、1番たいのをにした」
「なんでだ?」
「先に来たが1番たいのめるでしょ?」
そんな細かい部分を識しているに、俺は驚いた。働いた分の駄賃を渡そうとしたのはその週の終わりだ。銭をに包んで番台ののに置いた。
は包みを見て首を横に振った。
「何にもいらない」
「働いたらをもらうんだよ。そういう決まりだ」
「じゃあ湯に入れてもらってるから同じ。働いたおは湯に入るからなくなるよ」
「屁理屈だ」
俺はそうったが、返す言葉もなかった。俺は包みを引きしに戻した。
そのうちは、番台の子に座りたがるようになった。客がやってくるたびに背筋を伸ばしてをく。
「いらっしゃいませ」
さすぎて誰にも届かない。客は気づかずに靴を脱いでのを通りすぎていく。
「いらっしゃい」
「私が言ったのに」
「聞こえてなかったからな。もう1回来てもらって」
「通りすぎたは戻ってこないんだよ」
「じゃあもっときい声にするんだ。腹からせ、喉じゃなくて腹だ。腹からやってみろ」
「いらっしゃい」
「今のは喉だな」
「難しい」
は子のでむくれて、次の客が来るまでずっと入りを見ていた。
料の話をする常連はその頃にはいなくなっていた。
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だが今ではが本当に働いているのをみんな見ている。番台に子供が座っているというだけで、脱所の空気がし変わった。夫をなくしてから湯がりの子にく座っている常連の女性が、帰り際にを振るようになった。
だが魚だけは相変わらずだった。
「3代目、まだタダで入れてんのか」
「いえ、にも言ったでしょ。伝いをしてもらってます」
「はいはい」
そう言って笑いながら魚は蔵庫からコーヒー牛乳を2本す。自分の分は1本のはずだ。代は2本払うが1本しか持って帰らなかった。
「1本忘れてますけど」
「休憩のにでも嬢ちゃんに渡しとけ」
俺は素直じゃないなといつつも、言われた通りにそのコーヒー牛乳をに渡した。
閉のになると、は浴の片付けもやりたがった。
「せ、私がやる」
「いぞ」
「できる」
両で鎖を引くと、湯がうねって落ちていく。は必ずその、にしゃがんで排溝にをづけた。
「何を聞いてるんだ?」
「お呂が終わる音」
「そんなにいいか?」
「うん。今も全部終わったって音」
「変わったやつだな。おじさんも聞いてみて」
俺は言われた通りにしゃがんで排溝にをづけた。湯が渦を作って落ちていく音がした。20聞いている音だ。この子と並んで聞くと、しだけ違って聞こえた。1の終わりの音を、俺はより好きになっていた。
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1も終盤に差しかかり、2がづくとが落ちるのが層くなった。のれんをろす頃には通りのはどこも閉まっている。そんなを、灯の隔がい坂を7歳の子供が1でりていく。それがずっと引っかかっていた。
ある晩。俺はが伝いを終えるよりも先にのれんをろした。のれんを落とした。
「今はまで送る」
「いい、1で帰れる」
「帰れるかどうかの話じゃない」
「私、覚えてるよ」
「俺がきたい方向なんだよ」
「おじさん、2階にんでるって言ってた」
「散歩だ」
はしばらくを尖らせていたが、結局並んで歩きした。坂の途で吐息がくなる。
「学はどうだ?」
「今、揚げパンだった」
「そりゃ当たりだな」
「きなこのやつ、半分だけ残して袋に入れた」
「持って帰ったのか?」
「うん」
「腹が減らないか?」
「減らない」
「いかけだぞ」
「私、しでいいの」
そこから先は言わなかった。気になることはいくつもあったが、俺は何も聞かなかった。
「お母さんは、が夜にてるのをってるのか?」
「お母さんは……寝てるだけ」
と同じ答えが、と同じ速さで返ってきた。用してあるとわれる答えはいつもい。
坂をり切ってし歩いてに入ったところに、古いアパートがあった。階段の鉄が錆びていて、の廊の球が1つ切れている。はそのでを止めた。
「ここでいい」
「部まで送るぞ」
「ここでいいの?」
「お母さんに挨拶くらいさせろよ」
「今はだめ」