"七歳の女の子が握りしめた富士山の木札" 第3話
子供の言うことだ。いはない。そうおうとして、うまくいかない。俺は釜のをいつもよりく残した。をく残せばその分だけ薪が減る。運んでくるのは俺だから、その分だけが増える。増えても構わなかった。
次のから、閉のをしだけ遅らせるようになった。誰かに言うことでもないので、俺のに誰もらない。が来るのは845分頃だ。そのになると湯の温度が落ちかけるので、俺は薪をすようになった。誰に頼まれたわけでもない。
箱の札はによってバラバラだった。はそのいている番号を使う。俺はそれがし気になった。
閉、俺は棚の奥から古い札を1枚した。番号が消えかけていこと使っていない札だ。刀で裏を削ってみる。何かの形にしようとしていついたのが富士だった。男湯の壁のあれしか浮かばなかった。
線が歪んだ。2本目も歪んだ。裾の広がりがで違う富士が、の裏に残った。
次の晩、俺はそれをに渡した。
「これ、の札にする。俺の番台に置いとく。使うに取りに来い」
は両で札を受け取った。それからかなくなった。裏を見て、表を見て、また裏を見る。何度も同じことを繰り返している。
「これ、だ」
「富士だ。壁にいてあるのと同じやつだよ」
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「おじさんが彫ったの?」
「昨の夜にな」
「なんで?」
「番号だけだとどれがの分からないだろう。のが使っちゃうだろ」
「丈夫だ。昼は使用にしておく」
は札を胸に当てて、それから箱のへっていった。靴を揃えて札を戻そうとを伸ばす。だが棚の1番の段には届かなかった。
「届かない……。自分で入れたい」
「背がりないだろう」
つま先ちする。それでも無理だ。そのやり取りをしたに棚を準備してあげると、は背伸びをして札を入れる。
そののコーヒー牛乳をむに、は腰に片を当てた。俺のみ方だ。いつのに覚えたのか、腰の位置まで同じにしている。並んでんでいるところを帰り際の常連に見られた。
「3代目、さいのがいますよ」
「やめてください、私こうやってむの」
そのからは、必ず腰にを当ててむようになった。
その翌、1番に入る元の老が、番台の札を黙って見ていた。老は毎1番に来て1番く帰る。数は数えるほどしかない。
「その札、この札は専客がいるんです。貸せません」
「いいから貸せ。返す」
理由も言わずに、老は持って帰った。俺は取り返しにくべきか迷ったが、結局何もしなかった。今晩来るにどう説しようかと考た。幸いにも、その夜は呂に来なかった。
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翌、約束通り老は湯に入るに札を番台へ置いた。裾がまっすぐに伸びて、富士には浅いまで入っている。てっぺんのまで掘り分けてあった。
「掘りが浅い」
それだけ言って、老は男湯へ入っていった。俺は自分が削った線をいしてち尽くした。いつもは数のない老の優しさが、とてもくすぐったかった。
その夜、は掘り直された札を見て声をあげた。
「本物の富士になってる!」
「うちの客が直してくれた」
「誰?」
「毎1番最初に入るじいさんだよ」
「、お礼を言う」
「言っても返事はしないぞ」
「なんで?」
「そういうなんだよ」
「変なの?」
「うちの客はみんな変だ」
は帰り際、札を握ったままのへていこうとした。
「それは置いてけ」
「やだ。ここで預かっておく」
「ここにあればなくならないだろう」
はしばらく考えてから、俺のに札を乗せた。
「も来る」
「ああ、も。うちがいてる限りはある」
俺は番台のろにある棚の1番に、その1枚をしまった。
それから数の夜だった。湯をがった常連の1が番台のでを止めた。が箱の方で靴を揃えている。
「3代目、あの子、おは……」
「うちのお伝いなんです。札を並べたりそういうことをやってもらってるので、は取ってません」
が勝にいた。
「伝いって、あの子いくつだ?」
「学1です」
以、がコーヒー牛乳をみながら教えてくれた。
「1を働かせてるのか?」
「札を並べるくらいのことです」