"婚姻届の帰り道、残高は1億円だった" 第15話
その横顔には静かな覚悟が宿っていた。
その夜、亜子からも話があった。 「み咲、デマなんて事実のでは無力なのよ。が綺麗だと証すればいい。孝介さんの酒が本物だと世に突きつければいい。準備はこっちでもめてる。反撃の狼煙はもうすぐよ」 その声は力かった。俯いてばかりもいられない。私は受話器を握りしめた。汚染のデマと鷲尾の結託、健太の嘲笑、そして世界が探し求めるの酒の――全ての材料が今、静かにこの蔵の卓へ揃った。嵐ののいしじまので、私はこれから始まる何かきなものの気配を確かにじ取っていた。
品評会を数に控えたある、蔵の座敷に私と孝介さん、そして亜子の3が集まっていた。 座敷のには1つの封筒が置かれている。孝介さんが県の公関に取り寄せた湧の質検査の証だった。これで汚染のデマは事実ので完全に否定できる。
亜子が証に目を通しながら頷いた。 「問題はいつこれをすかよ。孝介さん、品評会には鷲尾も来る。あのきなで突きつけるのが1番効くとうけれど」 孝介さんは静かに頷いた。 「ああ、それにもう1つ。この際だ、俺の正体も『現』のことも、全部あのでかそうとう」
私はわず彼の顔を見た。あれほど肩きを嫌っていただ。
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「いいんですか? ずっと隠していたのに」 「構わん。親父が残した蔵とを守るためだ。それに、おをこれ以あんな噂に晒しておきたくない」 その言に私の胸はくなった。
そして品評会の当を迎えた。県の品評会は内のきなホテルの宴会でかれた。県内のたる蔵本や酒販の関係者、そして業界の記者たちが度に会するだ。会には各蔵の自の酒がずらりと並んでいた。そのにひっそりと、けれど堂々と置かれた瀬の蔵の酒。
私は孝介さんの隣でし緊張しながらそのにっていた。彼はいつもの作業着ではなく、仕ての良い紺のスーツにを包んでいる。それでもその佇まいにはしも気負いがなかった。
会の角がざわめいた。 「鷲尾彦……『商』の社が取り巻きを引き連れて姿を現したのだ。等なスーツにを包んだ、いかにも業界の実力者といった貌の男だった。彼は孝介さんの姿を認めると、元にうっすらと笑を浮かべた。
その鷲尾のしろに見覚えのある姿があった。玲子だった。2が揃ってこのにいる。その事実が彼らの結託を何よりも雄弁に物語っていた。
やがて主催者の挨拶が済むと、来賓として鷲尾が壇にった。マイクをに、彼は滑らかに語り始めた。 「本は県の酒作り発展を祝うめたい席でございます。
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しかし私はあえて皆様にご忠告申しげねばなりません」 会が静まり返る。 「頃にする話です。県内のある蔵で仕込みの質に問題があるのではないかという噂。もしそれが事実なら、県全体の酒の信用に関わる事です」
鷲尾はそこでちらりと私たちの方へ線を送った。名ざしこそしないが、それが瀬の蔵を指しているのは会の誰の目にもらかだった。 「消費者の全のためにも、々は襟を正し、疑わしきものには厳しい目を向けていくべきでしょう。瀬の蔵の皆様もね……」
嫌を織り交ぜた、それは公衆の面での吊しげだった。会の線が斉に私たちへ突き刺さる。私は悔しさで体が震えそうになった。
そのだった。 「1つ、よろしいでしょうか」 隣で孝介さんが静かにを挙げた。そしてゆっくりと壇へ歩みた。
会がどよめいた。潰れかけのの酒蔵の男。そうわれている物が、の社に真っ向から対峙しようとしている。孝介さんはマイクのにつと、懐から通の類を取りした。 「今お話にた蔵のを仕込みに使っているものです。まずこれを」 彼はその類をく掲げた。 「公関による正式な質検査の証です。ご覧の通り、々の湧は国の基準をはるかに回る清らかさだと証されています。
汚染などという事実はどこにもありません」
会がざわめいた。記者たちが斉にメモを取り始める。