"婚姻届の帰り道、残高は1億円だった" 第12話
皆どこか値踏みするような目で蔵のを見回している。
座に腰をろした玲子が扇子をもてあそびながら唇を切った。 「今ははっきりさせておきたくてきたの。孝介、うちがこの蔵に貸したお、を揃えて括で返してちょうだい」
孝介さんは表を変えなかった。「いくらだ?」 「元と利息で5,000万。今にを揃えてね。もし返せないなら……」 玲子はそこで言葉を切り、唇の端を釣りげた。 「この蔵と、それにあの湧の権利をいただくわ。それが筋というものでしょう?」
蔵と――源郎が命の最に「渡すな」と言い残したもの。このはそれを堂々と奪い取ろうとしている。私は膝ので拳が固く握られた。
すると、玲子の隣にいたスーツのいい男がを挟んだ。親戚の目だという渡瀬というだった。 「まあ聞きなさい、孝介さん。そもそもこの蔵はな、瀬の族みんなの共財産みたいなものだ。あんた1のものじゃない。ここは1つみんなで分けるのが筋ってもんだろ」 渡瀬がを向けると、周りの親戚たちも「そうだそうだ」と々に頷いた。数の圧力だった。このの空気を玲子は完全に支配していた。
親戚の女性の1が私に聞こえよがしにささやいた。 「あの嫁が源郎を言い含めて遺言でもかせたんじゃないの? 護師だって言うし、やりようないくらでもあるでしょうよ」
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その言葉にカッとなっと血がくなるけれど、私は膝ので拳を握り、じっと耐えた。ここで取り乱せば相のうツボだ。源郎と孝介さんのために、品位だけは失うわけにはいかない。
私は孝介さんの横顔を見た。このはこの理尽にどうち向かうのだろう。 孝介さんは静かにちがり、奥の部へ入っていった。そして1冊の通帳と印鑑をに戻ってきた。
「渡瀬さんだったか」 悪いがこの蔵は族の共財産じゃない。源郎から俺が受け継いだものだ。 彼は玲子のにその通帳を置いた。 「玲子、は今返す。5,000万だな」
玲子の顔が瞬こわばった。 「何を言ってるの、5,000万よ? そんな、あんたみたいなの男に今用できるわけ――」 「できる」 孝介さんは静かに、しかし問答無用の調で切り捨てた。 「今すぐあんたの座に振り込む。振り込み先を教えてくれ。これで貸し借りなしだ。もうこの蔵には踏み入れないで貰う」
座敷がを打ったように静まり返った。の所を孝介さんは言も語らない。ただ、5,000万というを今即座に返せる事実だけを静かに突きつけた。それはどんな言葉よりも雄弁だった。
孝介さんはそのでスマホを取りすと、慣れたつきで操作した。程なくして玲子のスマホが着信を鳴らす。振り込み完の通だった。
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5,000万というがたった今いたのだ。
玲子はをパクパクとさせるばかりで、言葉がてこないようだった。彼女の描いた筋きが根底から崩れていく。そのだった。 「お話失礼いたします」 凛とした声が座敷に響いた。玄関にスーツ姿の女性がっている。亜子だった。私の親友の亜子。彼女はいつのに来ていたのか、すらりと座敷にがり込み、私の隣に当たりのように腰をろした。
「弁護士のと申します。瀬孝介さんの代理です」 亜子は玲子たちをぐるりと見回した。そしてカバンから通の類を取りした。 「源郎瀬源郎様の公正証遺言です。、正式に公証役で作成されたもの。内容を読みげましょうか?」
彼女は玲子の返事を待たずに続けた。 「銘柄『現』の商標、蔵、、そして湧の切の権利。これらは全て男・瀬孝介が単独で相続すると記されています」
親戚たちの「共財産」という主張はその1枚ののではかなく崩れった。公正証遺言は何よりい、個の最のだ。 「異議のある方は法廷でどうぞ。ただし、勝ち目はありませんけれど」 亜子の静かな言がとどめとなった。親戚たちは気まずそうに顔を見わせ、1また1と座敷をにしていく。あれほどの数の圧力はもうどこにもなかった。
騒ぎがった、私は亜子のを握った。 「亜子、あんなに反対していたのに……」 亜子はしだけバツが悪そうに笑った。