"婚姻届の帰り道、残高は1億円だった" 第1話
スマホがく、鋭く震えた。ポケットから取りした画面には、アプリからの入のおらせが表示されている。何気なくいた細の画面を、私はわず度見した。摘の欄には「活費」とだけ記されている。そのすぐの額欄には、見慣れない数の0が並んでいた。その額は、なんと1億円。臓がきくねがると同に、私はすぐ隣に線をらせた。
ハンドルを握っているのは、褪せた作業着を着た私の夫だ。れて節くれったで、古い軽トラックのハンドルをゆっくりと回している。結婚届をした帰りのことだった。まだ指輪もない、成りての夫婦だった。潰れかけの酒蔵で1黙々と酒を作っている。そう聞いていた。そういう男だと信じて、私はこのの隣に座ったはずだった。
「あなた、何者なの?」
自分でも驚くほど、声がひどく枯れていた。夫はを向いたまま、何も答えはしなかった。
のなかに気まずい沈黙が落ちたあと、私は自分のこれまでのにいを馳せた。私の名は桐み咲。まれ育ったこの方の町で、総病院の護師をしている。夜勤けの朝に父の入れた番茶をむのが、を過ぎた今も変わらない課だ。母はくにくなり、族は父と私の2きりだった。
護師という仕事を選んだのには、はっきりとした理由がある。
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忘れもしない、15のことだ。私が3の、建設現で働いていた父がから落ちた。脊髄の損傷という診断だった。命は取り止めたものの、そのままでは度と歩けないかもしれないと言われた。歩けるようにするための術には、当のがにはとても払えない額のがかかった。
母のいないで父と2、私はただ途方に暮れていた。父は病の井を見つめたまま、何もを聞かなかった。
「お父ちゃんのが、がないというだけでかなくなってしまうのか……」
そううと、涙さえてこなかった。転は突然訪れた。病院の窓からいもよらないらせが届いた。父の術費の全額を、名も告げない誰かが納めたというのだ。
窓の職員は、「匿名の投資の方からです。お名はどうしてもかせないと」と言って、丁寧にをげた。私はその言葉のをしばらくみ込めずにいた。顔もらない、縁もゆかりもない誰かが、父の、そしてがのを丸ごと救ってくれたのだ。
術は成功した。父はリハビリをね、杖をつきながらではあるが、自分ので歩けるようになった。あのから、私のの軸は決まった。の命に、の痛みに寄り添う仕事がしたい。顔もらぬあのが私にしてくれたことを、今度は私が誰かに返したい。
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そうして私は護師になった。
そしてもう1つ、私にはずっと続けていることがある。恩の本拠を探すことだ。がかりは何もなかった。それでもこの15、私は諦めきれずにいた。当の病院に問いわせ、古い記憶をたどり、当たりのあるに会いにったけれど、投資の正体はの向こうのままだった。恩はでは返せない。せめて度顔を見て、をげたい。ただそれだけを願い続けてきた。
父は今も私に負い目をじているようだった。ある晩、夕飯の、湯呑みを両で包むようにして父がぽつりと言った。
「み咲、おには苦労ばかりかけちまったな。母さんもいない。もない。おまけにあんな事故まで起こして……」
私はテーブル越しに父を見つめ、首を横に振った。 「何を言ってるの? お父ちゃんがまた歩けるようになった。それだけで私は分だよ」 「おが護師になれたのもあののおかげだ。俺はあのに何も返せちゃいない」
父の言葉に私は静かに首を振った。学ももない父だが、このほど実直にきてきたを私はにらない。返せていないのは私も同じだった。えば私自にも、報われないことばかりが続いていた。3ほど付きった婚約者の健太には結局捨てられた。員の彼は、世していく自分の隣に私を連れてくつもりはなかったらしい。
「み咲は夜勤ばっかりでにいないだろう。緒にいても正直面くないんだよ」