"昭和31年、給料日に消える父の秘密" 第2話
恵美はわず母の顔を見た。
「お父さんが?」
「分からないわよ」
「でもお父さん、そんな……」
「私だってそういたくない」
母はを止めた。
「だけど料だけ遅くて、理由を言わなくて、物までなくなってるでしょう」
疑おうとえば、いくらでも疑えた。
恵美は父を信じたいとった。
けれど同に、
父はいったい何を隠しているのだろう。
その疑問が、ににきくなっていった。
正が働くのは、墨田川にい角にある「精」というさな械だった。
従業員は30ほど。主にポンプや印刷に使う属部品を削っていた。正は18歳で見習いとして入り、それから18、ほとんど同じ旋盤のにち続けていた。
景気は世全体ではしずつ良くなっていると聞にはかれていた。
テレビを持つが増え始め、しい蔵庫や洗濯の広告も目つようになった。所でも、「来は気洗濯を買う」と話す庭が現れ、子どもたちはテレビのに集まって力を見た。
けれど、さな町の景気がすべて同じように良かったわけではない。
恵美はそんなことをらなかった。
父は何も言わなかったからだ。
川の暮らしは裕福ではなかったが、特別貧しいともっていなかった。
米は毎決まったから買う。
魚は週に2、3度。
肉はに数回。
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学で必なノートや鉛も、母は「待ちなさい」とは言ったが、最には用してくれた。
料には、母が必ず茶い封筒のを数えた。
そして額をいたさな帳面をき、
賃ではなく固定資産税の積。
米代。
気代。
ガス代。
学費。
町内会費。
父の煙代。
そんな項目へつずつ鉛で数字をいていった。
ある、恵美が帳面を覗くと、母は苦笑した。
「見ても面くないでしょう」
「毎同じ?」
「ほとんどね」
「お父さん、料がらないの?」
「そう簡単にはがらないわよ」
母はそう言ったものの、どこかしている様子だった。
毎同じだけ入ってくる。
なくとも、暮らしはそれを提に組みてられる。
ところが父の物だけは消えていった。
3の初め。
恵美は押し入れの奥へ置かれていた古い箱を探していた。
学で裁縫具が必になり、母から「昔の箱のに布切れがある」と聞いたからだ。
その途で、父の具箱が目に入った。
蓋をける。
以はぎっしり詰まっていたはずなのに、隙が増えていた。
槌。
ヤスリ。
ドライバー。
ノコギリ。
さな鉋。
いくつかは残っている。
しかし父がよく使っていたラチェットレンチと測定器具がなかった。
「お母さん」
「何?」
「お父さんの具、減ってる」
母が来た。
具箱を見て、しばらく黙った。
「会社に持ってったのかしら」
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「でもはここにあったよ」
母は答えなかった。
その夜。
正が帰宅すると、文子は具箱のことを尋ねた。
「あなた、の具、会社へ持ってった?」
正は噌汁をみながら、
「しな」
と答えた。
「何のために?」
「必だったから」
「いつ戻すの?」
父は箸を置いた。
「いちいち聞くなよ」
母の顔が張った。
「聞くでしょう。の物がつずつなくなってるんだから」
「俺の物だ」
「そういう話をしてるんじゃないわ」
「じゃあどういう話だ」
2の声がしずつ固くなっていった。
浩司が事のを止める。
恵美も黙った。
母は子どもたちを見て、そこで言葉をみ込んだ。
「……もういい」
その晩。
恵美は布団のでなかなか眠れなかった。
隣では浩司がさな寝息をてている。
襖の向こうから、両親の声が聞こえてきた。
「文子」
父の声だった。
「余計な配するな」
「何も分からないから配するのよ」
「俺がちゃんとやってる」
「何を?」
沈黙。
「あなたの“ちゃんと”って何?」
母の声が震えていた。
「毎おを持って帰れば、それで私は何も聞かなくていいの?」
そのは何も聞こえなかった。
翌朝、父はいつも通りへった。
640分。
弁当を持ち、作業をかぶり、
「ってくる」
と言った。
昨の喧嘩などなかったようだった。
けれど恵美は玄関から父の背を見ながら、
次の料こそ、本当のことをりたいとった。
325。
そのは料だった。
恵美は学から帰ると、母に嘘をついた。
「千鶴ちゃんので宿題してくる」
「暗くなるに帰るのよ」