"片親の分際で、100年早い" 第14話
な扉をけると、広い部が現れた。
窓からは京の並みが望できる。くにはビル群がかすみ、には病院の敷に咲く桜が見えた。の差しが差し込み、部全体が温かいに包まれている。壁には医学の証や額が並び、本棚には分い専が然と並んでいた。この部が、父のなのだ。
「座ってくれ」
父がソファを示した。革張りのソファは、座ると体を優しく包み込んだ。俺は父と向かいわせに座った。しばらく沈黙が流れた。父は窓のを見つめ、俺はその横顔を見ていた。父の顔にはいシワが刻まれている。臓科の最線で戦い続けてきたのみがそこに刻まれていた。
「陽、すまなかった」
父がをいた。
「美鈴がくなった、私はそばにいなかった。学会の張でにいたんだ。連絡を受けて慌てて帰国したが、もう遅かった。義母は私を責めた。『美鈴を1にするな』と何度も言っていたのに、私は仕事を優先した。その結果、美鈴は1で買い物にき、事故に遭った」
父の声がわずかに震えていた。
「義母が陽を引き取ると言った、私は反論できなかった。義母の言う通りだとったからだ。私に陽を育てる資格はないと……」 「父さん……」 「でも、ずっと悔していた。おの成を見守りたかった。入学式、卒業式、運会……そういう事に1度もられなかった」
広告
俺は黙って聞いていていた。父がそんなことを考えていたとはらなかった。学3のに初めて会った、おは私をにらみつけていたな、と父が苦笑した。
「はい。確かにあのの俺は父をんでいた。祖母から『あの男のせいで美鈴はんだんだ』と聞かされて育った。顔もらない父をずっと憎んでいた。そのりをぶつけるつもりだった」
しかし、父の目を見た瞬、言葉がなかった。父の目にはいしみが宿っていた。悔と自責のがにじみていた。あの、俺は父もまた苦しんでいたのだと気づいた。
「あの、おが私を許してくれなくても仕方がないとっていた。でも、おは連絡をくれた。1ヶに……」 「はい。あのメール、何度も読み返したよ。『話がしたい』という言だけだったが、それだけで分だった」
俺は目を伏せた。あのメールを送るまで何度も迷った。祖母の言葉がかられなかったからだ。「あの男のせいで美鈴はんだんだ」。その言葉を信じていた俺にとって、父に連絡することは裏切りのような気がした。
しかし最終に、俺は父に連絡した。母がくなったことは誰のせいでもない。事故だったのだ。祖母はしみのあまり、誰かをまずにはいられなかっただけなのかもしれない。
「陽、おが付属を受験すると聞いた、私は嬉しかった。
広告
おが私と同じ病院で働きたいとってくれていると。しかし同にもあった。おが委員の息子だとられたら周りの態度が変わる。それがおにとってプラスになるかマイナスになるか分からなかった」
俺は祖母の姓を使い続けた理由を説した。自分の力で評価されたかったのだと。父は「おの判断は正しかったとう」と答えた。
父が俺をまっすぐに見つめた。
「陽、おは今自分の力で格したんだ。私がをすのは戸塚君のを止めるためだけだ。おの採用は柴田さんと教授陣の評価で決まった。私は切関与していない」
が込みげてきた。謝の言葉を伝えると、父はな言葉を返してきた。
「礼を言うのは私の方だ。おが『父さん』と呼んでくれたのは、今が初めてだった。再してからずっと、おは私を『あなた』としか呼ばなかった。それが今……」
父の声がわずかに震えた。
「『父さん』と呼んでくれた。それが何より嬉しかったんだ」
父の目がしだけ潤んでいた。俺はちがり、父のにった。これからここで働く。父と同じ病院で医者として、と伝えた。母を救えなかった悔しさを忘れない。でもこれからはを向いてきていく。父と緒に。
父がちがり、俺の肩にを置いた。
「陽、おは派な医者になる。
私が保証する」
込みげてくるものがあった。俺たち親子はいをかけて、ようやくここまで来た。