"片親の分際で、100年早い" 第10話
負けてたまるか。母さんが命をかけて産んでくれた命だ。「あなたはい子よ」と言って抱きしめてくれた。祖母がを注いで育ててくれただ。「陽は賢い子だから、きっと派になれる」と言ってくれた。その2のいを、こんな男に否定されてたまるか。
俺ので何かが変わった。恐怖が消え、代わりに静かな決がまれた。俺は顔をげた。戸塚の目をまっすぐに見据える。
「戸塚さん、1つだけ聞いてもいいですか?」 「なんだ」
戸塚が眉を潜めた。「何が言いたい」とい声で問い返してくる。しかし俺はひるまなかった。燃え尽きた履歴のを見つめながら、俺ので1つの仮説が形をなしていた。
履歴を燃やしてまで俺を排除しようとする。それほどまでに片親というが許せない。その激しさは、単なる偏見とはえない。
「あなた自が、片親育ちだったんじゃないですか?」
面接に沈黙が落ちた。戸塚の顔が蒼に変わった。
「私の勝な推測ですが、あなたの態度を見ていてったんです。あなたは片親を憎んでいるんじゃない。片親だった自分自を憎んでいるんだ。苦労していがってきた。周りから馬鹿にされながらも努力して今の位をに入れた。でもその過程で、何かを失ったんじゃないですか? 優しさとか、いやりとか」
広告
戸塚が机を叩いた。きな音が面接に響き渡る。
「黙れ! おに何が分かる!」
鳴り散らし、俺が同じを歩いてきたと言うと、「笑わせるな」と蹴した。しかし次の瞬、戸塚の表が変わった。りの奥に、別のが見えた。
「俺はな……片親だったんだよ」
戸塚の声が震えていた。
「父親は借を作って蒸発した。母親は俺を育てるために文字通り血を吐くようないで働いた。俺は周りから馬鹿にされながら、必に勉した。この病院に入ったのは30だ。最初は雑用ばかりやらされた。『学歴がない』『柄がない』。そう言われ続けた。それでも俺はいがった。今の位をに入れたんだ!」
俺は何も言えなかった。戸塚の過が初めてらかになった瞬だった。戸塚の目が暗いを帯びていた。
「だからおが気に入らないんだ、藤川。おみたいな奴が、俺と同じを歩いてきたなんて認めたく無い。俺がどれだけ苦労したか、おなんかに分かってたまるか!」
俺はまっすぐに戸塚を見つめた。
「あなたの苦労は本物だといます。尊敬に値する努力だったといます。でも、だからこそ、俺のようなに優しくできるはずじゃないんですか? 同じ苦労をっているからこそ、を差し伸べることができるはずじゃないですか?」
俺は歩も引かなかった。
広告
「あなたは苦労を乗り越えた。でも、その過程で切なものを失った。俺はそうなりたくない。片親で育ったことを誇りにいたい。母が残してくれた命を切にしたい。だから、あなたにはならない」
戸塚の顔がりで歪んだ。
「気な……!」
その、戸塚がいた。テーブルを回り込み、俺に詰め寄ってきた。その目は血り、拳が握りしめられている。
「おみたいなガキに何が分かる!」 「戸塚さん!」
柴田護部が叫んだが、戸塚は止まらなかった。
「俺のを否定するな! 俺がどれだけ苦しんできたか、おなんかに分かるわけがない!」
俺は退しなかった。戸塚のりを正面から受け止めた。
「分かりません。あなたの苦しみは、あなたにしか分からない。でも、だからこそ——」
俺は戸塚の目を見つめた。
「同じ苦しみを、の誰かにわわせるべきじゃない」
戸塚のきが止まった。その瞬の目に何かが浮かんだように見えた。しみか、悔か、俺には分からなかった。しかしそれは瞬のことだった。
「ふん……」
戸塚が笑を浮かべた。「綺麗事を言うな。この世界はそんなに甘くないんだよ」
戸塚が俺かられ、テーブルに戻った。そして皿に残った履歴のを見ろした。
面接は静まり返っていった。柴田護部は悔しそうに唇を噛みしめ、教授は誰1としてをこうとしない。
全員がこの異常な状況に巻き込まれながら、ただ傍観することしかできなかった。戸塚は俺の履歴が燃えたこと、記録が消えたこと、俺がもうこの病院の受験者ではないことを告げた。