"席次表から消された姉" 第11話
自分の父親から「悪魔」と吐き捨てられた男。 そして、その男とヶに式を挙げようとしている私。
田区の病院をにしてから、私はどうやって目黒のマンションまで戻ったのか、記憶が定かではなかった。 気がつけば、とグレーで統された無質なリビングのソファに腰をろし、暮れていく並みを窓越しに見つめていた。
結婚式まで、あと週。 すでに招待状の印刷は最終程に入っており、式のキャンセルが利かない期がすぐそこに迫っていた。
「おい、美奈。暗い部で何してるんだよ」
背で玄関のく音がして、翔太がリビングに入ってきた。 には級デパートの袋を提げている。名パティスリーのロゴが入ったその袋を、翔太はダイニングテーブルにぽんと置いた。
「母さんからお産だ。『美奈さんに美しいタルトを買ってあげてちょうだい』ってさ。昨の昼休みにわざわざおを呼びしたことを、し気にされてたみたいだぞ。本当に優しいだよな」
翔太は嫌でネクタイを緩め、私の隣に腰をろした。 漂ってくる、いつもと同じスパイシーなコロンの匂い。 かつてはを覚えていたそのりが、今は腔を突く猛毒のようにじられて、私はわずを引いた。
「……どうしたんだよ? まだ姉貴のことで拗ねてるのか?」
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翔太の目が、微かに細められた。 嫌の良さの裏側に潜む、相を自分ののままに操ろうとするたい計算が、今ならはっきりと見て取れる。
「プランナーさんには僕から最終決定を伝えたから。席次表から姉貴の名は完全に削った。『急なボランティアで欠席』って理由にしておいたから、親戚にも角がたない。これで件落着だろ」
「……勝に決めたの?」
「勝じゃないだろ。鈴の体面を守るための最善策だ。おだって、親戚同から『あのお嫁さんのお姉さんは……』なんてを叩かれたくないだろ? 僕がおの盾になってやってるんだよ」
盾。 どのが、それを言うのだろうか。 病で失禁した父親を「臭い」と罵倒して逃げし、の姉の献をい物にしておきながら、自分は善の庇護者であるかのように振るうこの男。
私はテーブルのに置かれたデパートの袋を見つめた。 その華やかなリボンので、どれほど醜悪な悪が渦巻いているのか。 吐き気を必に抑え込みながら、私はちがった。
「……お呂、入ってくるね」
「おい、美奈」
呼び止める翔太の声を背に受けながら、私は脱所へ逃げ込み、内側から鍵をかけた。 蛇を捻り、浴槽に湯を張りながら、鏡に映る自分の顔を見る。 頬は痩せこけ、唇のは失われていた。
森さんの証言だけで全てを決めつけることはできない。
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けれど、姉が何かをっており、そして翔太の父親である克己さんが決定な恐怖を抱いていることだけは違いなかった。
克己さんは現、退院して世田の自宅に戻っているはずだった。 だが、翔太は決して私を世田のにかせようとしなかった。 「父さんはまだリハビリで体力が戻らないから、に会うと疲れてしまう」「母さんがでつきっきりで介護しているから、邪魔をしちゃいけない」 そう言って、挨拶にくことすら頑なに拒んできたのだ。
本当に、克己さんは自宅で静養しているのだろうか。 森さんが言っていた、もうひとつの言葉がをよぎる。
『あのお父様、退院される直にはリハビリ病院へ転院されたけれど……』
私はスマートフォンを取りし、震える指で検索を始めた。 田区の総病院と提携している、隣のリハビリテーション施設、あるいはデイケアセンター。 脳血管障害の遺症リハビリを専とする施設は、そうくはない。 森さんがにした微かな名の断片――「摩川沿いの、さな通所施設」。
数分の検索の末、ひとつの施設がヒットした。 『摩リハビリテーション・デイケアセンター』。 世田の鈴邸からはで分ほどの距にある、医療法系列のさな通所リハビリ施設だった。
利用は週に回、曜と曜。 だ。
私は湯気のち込める脱所で、スマートフォンの画面を握りしめた。