"席次表から消された姉" 第3話
畳と畳半のさな1DK。 リビングの炬燵には、介護関連の専やシフト表が無造作に積まれていた。壁には、私が学の卒業式で姉と緒に撮った写真が、さな製の額縁に入れられて切に飾られている。
綾さんは何も聞かずに、台所で湯を沸かし、いほうじ茶を淹れてくれた。 湯気のつ湯呑みを私の両に包ませてくれる。その指先は、相変わらず節くれっていて、乾燥でくを吹いていた。
「……あったかい」
「し落ち着いた?」
綾さんは私の向かいに座り、優しく微笑んだ。 その笑顔を見るのが、たまらなく痛ましかった。このを否定した男の顔が、その母親の傲な声が、のでリフレインして胸を抉る。
私は息をえながら、バッグからぐしゃぐしゃになった席次表を取りし、テーブルのに広げた。 赤ペンで無残に引かれた線を、綾さんの線が静かになぞる。
「……翔太さんがね」
私は絞りすような声で、ラウンジで起きたことをすべて話した。 翔太が何と言ったか。母親の冴子さんがどんな言葉で姉を侮辱したか。世体のために留学だと嘘をつけと迫られたこと。 話しているうちにりと屈辱で再び声が震え、涙が湯呑みのに落ちた。
「ごめんなさい、お姉ちゃん……本当にごめんなさい。私、あんなたちだとわなかった。
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あんな男に、お姉ちゃんを侮辱される筋いなんてないのに……私、悔しくて、悔しくてたまらないよ」
私はをげて謝り続けた。 もし姉が激して、「そんな非常識なとの結婚なんて今すぐ破談にしなさい!」と鳴り散らしてくれたら、どれほど救われただろう。 あるいは、傷ついて涙を流してくれたなら、緒に泣いてその痛みを分かちえただろう。
だが、綾さんは違った。
ることも、泣くこともなかった。 ただ、湯呑みからちる湯気を見つめ、静かに、本当に静かにく息を吐きしただけだった。 その横顔には、驚きのすら浮かんでいなかった。 まるで、最初からそうなることをっていたかのような、底れない諦とややかな覚悟が漂っていた。
「お姉ちゃん……?」
私が怪訝にって顔をげると、綾さんはゆっくりと線を私に向けた。 その瞳は、私が今まで見たことがないほど澄んでいて、どこまでも徹だった。
「美奈。泣かなくていいよ。あなたが謝る必なんて、ひとつもない」
「でも、あんな酷い言われ方をして……」
「いいの。私は傷ついてないから」
綾さんは席次表の自分の名につけられた赤い線を、指先でそっと撫でた。
「あのが私を式に呼びたくない理由はね、美奈。私の仕事が見らしいからでも、世体が悪いからでもないよ」
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「え……?」
「あのたちが本当に恐れているのは、別のこと」
綾さんは穏やかな、けれど切の迷いを排した声で、こう言った。
「私が式にるとね、あのは困るんだよ」
部の空気が、瞬にして凍りついたようにじられた。 計の秒針がカチ、カチと刻む音だけが、やけにきく響く。
「困るって……どういうこと? 鈴が、お姉ちゃんを恐れてるってこと?」
私の問いかけに、綾さんはすぐには答えなかった。 彼女はちがり、台所の棚から古い箱を取りしてきた。からてきたのは、冊のいスケジュール帳と、医療用の領収やメモの切れ端が挟まれたクリアファイルだった。
それをテーブルに置くと、綾さんは私の目をまっすぐに見つめ返した。
「美奈。翔太さんはあなたに話した? ののこと」
「の……?」
「のからにかけてのヶ。翔太さんのお父様が、度の脳梗塞で緊急入院したのことよ」
記憶の引きしが、急速にかれていく。
の。確かに、翔太のお父さんが倒れたという話は聞いていた。 当、まだ婚約だったけれど、私は翔太を配して「何か伝えることはない? お見いにこうか」と何度も申した。 だが、翔太はいつも頑なにそれを拒んだのだ。
『うちの母さんは伝統のあるのだから、親族以のを病に入れるのを極端に嫌がるんだ』 『父さんの病状は落ち着いてるし、母さんと僕で万全の体制を取ってるから、美奈は気にしなくていい』